小惑星にも型がある
小惑星は、基本的に石や岩、砂などでできています。しかし、実際にその物質を持ち帰ってきたという例はまだありません(「はやぶさ」がその最初の例となりましたが、微粒子まででした)。従って、表面が本当はどのような物質でできているのかを知るための主な方法は、小惑星からやってくる光を分光し(スペクトルをとり)、その光の様子から物質を推定するという方法です。
光には様々な波長(端的にいってしまえば色ですが、目に見えない紫外線や赤外線などもあります)があります。私たちが小惑星をみることができるのは、太陽からの光が小惑星に当たり、地球へとやってくるからですが、その光には、小惑星の表面の物質に固有の波長の光が含まれています。
光を波長ごとに分解することにより、どのような波長の光が多いか、あるいは少ないかということを調べ、おおもとの物質を推定することができます。その際の波長と強さの関係のことをスペクトルといいます。
小惑星についてもこれまでに多くのスペクトルが得られ、その形から、小惑星がいくつかの型に分類できることがわかっています。
代表的なスペクトル型としては、S型、V型、C型などがあります。実はこれらのスペクトル型は、いん石との対応がつけられることがわかっています。例えば、S型小惑星のスペクトル型は、いん石の中でも比較的普通にみつかる普通コンドライトと呼ばれるいん石との対応があり、V型小惑星の場合にはエコンドライトと呼ばれるいん石、またC型小惑星は、ときに有機物や揮発性物質(水など)を含み、始原的(昔の姿を残している)とされるいん石である炭素質コンドライトと似ているといわれています。
ただここで気をつけなければいけないのは、スペクトルが似ているとはいっても、すぐに小惑星といん石とを結びつけることができないということです。小惑星の物質そのものを私たちはまだ手にしているわけではないので、あくまで「いん石と小惑星のスペクトルが似ているので、似たようなものでできているのではないか」という推定しかできないのです。
小惑星のサンプルを実際に持ち帰り、いん石と比較したり、詳細なスペクトルデータをとることで、いん石と小惑星との関係をよりはっきりと知ることができ、ひいては太陽系の小天体についてより深い理解ができるようになります。「はやぶさ」や「はやぶさ2」、オサイレス・レックス(オシリス・レックス)が小惑星のサンプルを持ち帰ることは、このように、太陽系を知るという意味で大きな意義があるのです。
太陽系の過去を秘めた小惑星
小惑星を調べる意義にはもう1つ、太陽系の過去を知るということがあります。
天体は大きくなればなるほど、それ自身が持つ熱のために内部が溶け、均一になってしまいます。それは、天体の物質の中にわずかに含まれる放射性物質が崩壊する際に出てくるエネルギーや、小さな物質が集まって天体となるときに落下してくることで生まれる重力エネルギーなどがあります。いずれにしても、一般的には大きな天体ほど大量のエネルギーを持ち、活発に活動します。
例えば、月は近い段階でも20億年ほど前には火山活動が止まったとみられていますが、地球ではいまでも火山が噴火し、地震が起き、プレートが移動しています。月よりはるかに大きい地球には内部に大量のエネルギーがあることは明らかです。一方、その内部はどろどろに溶けているとみられており、また地球が誕生した際には表面まで溶けたと考えられています。従って、地球が誕生したときの物質を地球上で探すということはほぼ不可能です。
さて、小惑星は月よりもはるかに小さい天体です。従って、地球のようにまるごと溶けたということはないとみられています。そのため、太陽系ができたときから、そのままの姿を保っているのではないかとみられています。小惑星は、いわば太陽系ができたときの状態をそのまま保存している、「太陽系の化石」ともいえる存在なのです。(注)
小惑星がどのような物質、さらにいえば鉱物や岩石でできているかを調べることができれば、太陽系ができたときにどのような物質があったのかを知ることができ、太陽系の起源、さらには地球の起源にも大きな手がかりをもたらします。小惑星探査はこのような意味でも重要なのです。