ヤリを打ち込んでの月観測

 月基地の建設、月面での生産活動、ビジネス、観光旅行……と、ここまでは数十年も先に予想される月の変貌を見てきたが、このあたりで話をグっと現代に近いところまで引き戻そう。すなわち、わが国で実際に動き始めている月関連プロジェクトについてだ。

 まず最初に実行に移される計画が、文部省宇宙科学研究所 [注1] による日本初の月探査機「ルナーA」の打上げだ。当初は、1997年夏の打上げ予定だったが、機器の改良のため1998年末以降に延期した計画 [注2] だが、改良部分以外の開発はほぼ終わっている。

 計画の内容は、ヤリ型の測定器を3本 [注3]、月面に打ち込み、月の地震や内部の熱の流れを測定しようというもの。過去に行なわれたアメリカのアポロ計画を中心として、月面の組成などについては明らかになっているが、文字通り月面にメスを入れる「ルナーA」は、月の誕生の謎に迫る計画として大きな注目を集めている。着陸するのではなく、観測機器を「打ち込む」という発想など、低コストで迅速に計画を進めることに馴れた日本の科学者ならではのアイディアだろう。

日本独自の月探査計画「セレーネ」

セレーネの月周回衛星と月面着陸機 次に控える大プロジェクトが、いよいよ国産の月探査衛星と着陸機を月面に送り込もうという「セレーネ(SELENE:SELenological and ENgineering Explorer)計画」だ。

 この計画は、宇宙開発事業団と宇宙科学研究所による共同ミッションとして進められ [注4] 、月の軌道(高度100km)を回る月周回衛星、月周回衛星と地上とを結ぶリレー衛星、そして月着陸実験機からなり [注5] 、2003年頃 [注6] 、H-IIAロケットによって打上げられる予定だ。

 セレーネ計画のミッション内容は5つの意味を持つ。最初の3つは、この連載の第2回~第4回で述べた「月の科学」「月での科学」「月からの科学」に結び付くものだ。

 まず、月面物質の化学組成、地形、地下構造、磁気や重力場などを観測し、月の起源や進化の過程に迫ろうとする「月の科学」。そして、月周辺の高エネルギー粒子やダストなどを調べる「月での科学」。さらに地球・太陽系の各衛星などを観測する「月からの科学」となる。いずれも、将来予測される月面での有人活動にとって重要なデータが取得されることだろう。

これは一歩にしかすぎない

 残る2つの意味は、月での有人活動にもっとダイレクトにつながりそうなものだ。つまり、月面に軟着陸する技術の実証と、月面の環境で生活するための熱制御・エネルギー蓄積技術の実証である。

 具体的な形を持って進められている月探査計画は、現在のところこの2つのみだが、すでに専門家らによって月面基地建設までのシナリオは作られている。ルナーAやセレーネ計画は終着点ではない。

[注1] 現在は、JAXA(宇宙航空研究開発機構)が進めています。
[注2] 現在、計画の見直し中。
[注3] 執筆時以降の構成変更により、現在のペネトレータ搭載数は2本となっています。
[注4] 現在、宇宙開発事業団と宇宙科学研究所は、宇宙航空研究開発機構に統合されています。
[注5] 現在のセレーネ衛星には月着陸実験機はありません。セレーネは、本体・リレー衛星・VRAD(ブイラド)衛星からなります。
[注6] 現在、セレーネの打ち上げは2007年度を予定しています。

参考文献:岩田 勉著
2020年 日本人の月移住計画は もう始まっている

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このページは、1997年4月から1998年3月まで宇宙開発事業団(当時)の機関紙「NASDA NEWS」に連載された、「月がふるさとになる日」を移設したものです。記述内容に当時の状況を反映したものがありますが、オリジナル性を重視し、そのまま掲載しています。