ビジネス拠点としての月の成長

鉱物資源とエネルギーの確保、そして月基地の建設が進行し、天体観測や実験、食料や資材の生産が軌道に乗れば、月はやがて1つの都市として機能するようになる。初期の段階では、月で生活するのは一部の研究者などにとどまるだろうが、やがて月でビジネスが成立するようになると、たとえば「月支店への出張」といった具合に、あるいは観光のために、一時的に月を訪れたり月に滞在したりする人も増えるだろう。 ひと昔前の東南アジアを想像すればいいだろうか。大企業がこぞって進出し、それにともなってビジネスと観光と生活のための環境が整備されていった。すなわち、交通手段と宿泊施設だ。

新輸送系スペースプレーンの登場

スペースプレーン予想図このうち、月の場合は特に交通手段が問題となる。月は単に「遠い」というだけでなく、地球の重力を脱出しなければ行けない場所に浮かんでいるからだ。 となると、現行のスペースシャトルやその改良型では困難が予想される。スペースシャトルの打上げは多大なコストとリスク、さらに大きなGをともなうため、ジャンボジェット機のようにビジネス用途として一般化することはないだろう。快適なビジネスクラスでの移動になれたエグゼクティヴたちはスペースシャトルにも、リクライニングシートとコーヒーとアルコール、スチュワーデスをも求めるはずだ。 垂直離陸式の現行スペースシャトルに代わるものとして考えられているのが、水平離陸式の「スペースプレーン」だ。赤道に近い地点から離陸したスペースプレーンは、液体水素/液体酸素ロケットを吹かしながら地球の自転速度を利用して加速し、宇宙へと到達する。そして軌道上に作られた宇宙ステーションに積み荷と乗客を降ろし、ふたたび空港へと帰還。自身に飛行能力がなく滑空することすら不安定なスペースシャトルに比べ、飛行機に近いスペースプレーンなら、着陸のやり直し、エンジンがストップしてしまった際の対処も可能だ。整備コストも安くすむので、ビジネスマンや企業の懐の負担も軽減できることになる。

月シャトルや月着陸船の利用

いっぽう宇宙ステーションまで運ばれた乗客は、そこで別の便に乗り換えて月へと向かうことになる。いわば月シャトルだ。月シャトルはそのまま月面に着陸するのではなく、いったん月軌道を回るステーションに到着。そこから月面へは着陸船の利用となる。乗客にとっては面倒だが、輸送機の性能とコストのバランスを考えると、こうした乗り継ぎが必要な旅行となるだろう。 もちろんこれらは架空の話だし、スペースプレーンの乗客が体験することになるG、さらには技術的な問題など、解決しなければならない課題はある。が、スペースプレーンやそれに用いるエンジンの研究は各国で進められており、架空ではあるが夢ではなく、未来の出来事ではあるが「遥か先」ではない話なのだ。

参考文献:岩田 勉著
2020年 日本人の月移住計画は もう始まっている

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このページは、1997年4月から1998年3月まで宇宙開発事業団(当時)の機関紙「NASDA NEWS」に連載された、「月がふるさとになる日」を移設したものです。記述内容に当時の状況を反映したものがありますが、オリジナル性を重視し、そのまま掲載しています。