サイキ 探査の概要

■史上初、金属質小惑星の探査

これまで多くの小惑星探査が行われてきました。そして、その多くは、「一般的な」小惑星の探査でした。この「一般的な」というのは、私たちがイメージしがちである小惑星、すなわち、岩石でできている小惑星でした。これは、「はやぶさ」や「はやぶさ2」といった地球近傍小惑星の探査、あるいは小惑星帯の探査でもニア・シューメーカーやドーンがそうでした。
しかし、小惑星の中には、これまで訪れたことがないタイプの小惑星があります。それが、ほとんど金属でできている「金属質小惑星」です。史上はじめてこのような小惑星を訪れ、その姿を明らかにしようとする探査がこの「サイキ」です。

小惑星プシケの想像図
小惑星プシケの想像図

Photo: ASU/Peter Rubin

■見たこともない世界への旅立ち

これまで私たちが探査してきた小惑星は、そのほとんどが岩石からなる小惑星でした。「はやぶさ2」が探査したリュウグウ、「オサイレス・レックス(オシリス・レックス)」が探査したベンヌのように、水や有機物を含むとされる小惑星はありましたが、いずれも基本成分が岩石であるという事実は変わりありません。これに対し、プシケはそのほとんどが金属でできていると考えられます。

ひるがえって私たちの地球がどのような中身になっているかを考えてみましょう。ご存知の通り、地球の中心部には金属からできたコア(核)が存在し、その上には高温の岩石からなるマントル、さらにその上、地表までの部分は硬い岩石でできている地殻がある、ということになっています。
小惑星のでき方は未だに科学者の間でも諸説あり、はっきりとわかっていませんが、多くの科学者は、成長途中の天体が何らかの理由で破壊され、その破片が小惑星になったと考えています。ただ、地球のような大きな惑星クラスの(一つの)天体が破壊されたのではなく、もっと小さな、「大きな小惑星」サイズの天体が成長しきれないまま破壊された可能性があるとみられています。このとき、コアに相当する部分が金属質小惑星に、マントルや地殻に相当する部分が岩石質の小惑星になったと考えられます。

いずれにしても、このような金属質小惑星を調査することは、小惑星のもととなった天体(母天体といいます)がどのようなものなのかを知り、ひいては小惑星の起源(特に小惑星帯の小惑星の起源)を知る上で重要なことといえます。
小惑星帯の小惑星のでき方は、さらには太陽系の惑星のでき方とも大きく関わってきます。サイキによる探査は、このように私たちの小惑星に対する知識を大きく広げてくれるものといえるでしょう。

もちろん、将来宇宙から資源をとってくるという、いわゆる「宇宙資源採掘」の立場からも、このような金属質小惑星の探査は重要です。私たちにとって有用な金属資源がこういった小惑星にどのくらいあるのかを知ることができれば、将来(かなり遠い将来になるにせよ)私たちがこれらの資源を利用できる可能性はぐっと高まります。

■打ち上げは当初予定2022年8月、しかし2023年以降に延期

サイキの打ち上げは当初2022年8月が予定されていました。
小惑星帯は火星のさらに先にありますので、到着には時間がかかります。当初の予定では2026年に小惑星プシケに到着、その後この小惑星を21ヶ月にわたって周回しながら探査を実施する予定です。なお、この途中2023年には火星を通過します。
しかしNASAは2022年6月、探査機に搭載される飛行ソフトウェアの納入が遅れ、試験が間に合わないという理由で、2022年の打ち上げを断念すると発表しました。打ち上げは2023年以降となります。スケジュールについては今後発表される予定です。

搭載機器は、マルチスペクトル・イメージャー(カメラ)、ガンマ線・中性子スペクトロメーター、磁力計の3つと、比較的小ぶりとなっています。もともとサイキは「ディスカバリー計画」という、NASAとしては小〜中規模の月・惑星探査計画として選定されています。開発費用を抑え、開発期間を短縮するため、また遠方へ向かうために探査機自体を小さくする必要があることが必要なため、「選び抜かれた」装置を搭載していくことになります。なお、電波での通信を利用した電波科学探査も実施する予定です。

遠方に到達するためには効率的な推進機関が必要です。このため、サイキでは他の小惑星探査機にも搭載され効果が実証されている電気推進を利用します。サイキの電気推進は「太陽電気推進」(SEP)と呼ばれ、搭載されている太陽電池パネルで発電された電力を利用して推進剤をイオン化し、加速させます。