■「アメリカ版はやぶさ」とも称される、小惑星サンプルリターン計画

小惑星イトカワからのサンプル回収という、世界初の快挙を成し遂げた日本の探査機「はやぶさ」。その「はやぶさ」のように、小惑星へ無人探査機を飛行させ、サンプルを回収させて帰る、という計画が、このオサイレス・レックス(オシリス・レックス)です。
目的とする小惑星は「ベンヌ」と名付けられています(仮符号1999 RQ36)。この小惑星は、イトカワと同様、地球の軌道に似た軌道を回る小惑星(地球近傍小惑星)です。また重要な特徴として、この小惑星は炭素に富むことがわかっています。これは、この小惑星に揮発性物質、とりわけ水や有機物などが豊富に存在する可能性を示唆しています。
小惑星は、太陽系が誕生した頃の物質を現在まで残していると考えられていますが、水や有機物などが存在しているということは、熱による変成を受けていない、非常に古い物質をみつけることができる可能性があります。
このような小惑星からサンプルを持ち帰ることができれば、小惑星そのものへの理解だけでなく、我々の太陽系の誕生、そして進化についての極めて重要な情報を提供してくれるでしょう。
なお、偶然ではありますが、日本が2014年12月に打ち上げた「はやぶさ2」の目的地の小惑星、リュウグウ(1999 JU3)も、表面に水を含む鉱物の存在が指摘されており、似たようなターゲットを狙うことになります。

■各種の観測機器も搭載し、将来の有人小惑星探査も見据えた探査計画

オサイレス・レックスの中でいちばんメインとなる観測装置は、なんといってもサンプル回収装置です。こちらは、「はやぶさ」のような弾丸を発射するタイプとは異なり、窒素ガスを噴射し、表面の砂を巻き上げてアームの先端でキャッチするという形をとります。これは、アメリカがかつて彗星からのサンプル回収に成功した「スターダスト」探査機の設計を受け継いだものとなっています。
そのほか、オサイレス・レックスには、レーザー高度計やカメラ、スペクトロメーターなどの装置を搭載し、離れた場所から小惑星を観測することになっています。約500日という非常に長い観測期間を活かし、目的の小惑星をじっくりと調べ、サンプルの分析や地上からの観測とも合わせて、この小惑星を総合的に理解しようという戦略です。
このように小惑星をじっくりと調べるということは、もちろん上で述べたように小惑星を通した太陽系の理解という科学的な側面も重要ですが、そのほかにもいくつか重要な目的があります。
1つは、地球に近づく小惑星の脅威を見極めるという目的です。こういった小惑星が地球に衝突すれば、世界規模での大災害になることは間違いありません。特に、このベンヌは過去地球に何度も近づいたことがあり、また接近する予測が出されたことがあります。こういった小惑星衝突の脅威を取り除くためには、そのような小惑星の構造や性質などをよく知っておくことが重要です。
もう1つは、将来的な有人小惑星探査への布石です。2011年、アメリカのオバマ大統領は、それまでのアメリカの宇宙探査政策を変更し、究極の目標としての有人火星探査は変更しないものの、それまでの有人月探査に替えて、有人小惑星探査を第1の目標に変更しました。NASAが立案した有人小惑星探査を含む一大宇宙戦略「小惑星イニシアチブ」では、オサイレス・レックスはその前哨戦として位置づけられていました。残念ながらこの計画はトランプ政権で事実上中止されましたが、オサイレス・レックス自体の重要性はいささかも変わるものではありません。
例えば、小惑星は将来的には資源利用が可能になるとも考えられており、どのような資源が存在し、どのような形で分布しているかを調べることは重要です。オサイレス・レックスの観測成果はそのような知識にも貢献すると期待されています。

■2016年打ち上げ、2023年帰還予定

オサイレス・レックスの計画は、2年早く打ち上げられた日本の「はやぶさ2」ともよく似ています。
2016年9月9日(日本時間)に打ち上げられたオサイレス・レックスは、2019年9月22日の地球スイングバイを経て、2019年12月3日に目的の小惑星ベンヌに到着することになっています。ここでこの小惑星に約500日という長期にわたって滞在し、サンプル最終及び小惑星全体の撮影、観測を実施することになります。なお、取得するサンプルは最低でも60グラムほど、多ければ2キログラムほどという大量の回収を予定しています。
2021年早期に小惑星を離脱、地球に帰還するのは2023年9月を予定しています。このとき、カプセルはアメリカ・ユタ州の砂漠に到着することになっています(これも、スターダスト計画と同様です)。その後、カプセルはアメリカ・テキサス州のジョンソン宇宙センターに移送され、保管、分析などが実施されることになります。

なお、このオサイレス・レックスという名前は、「小惑星の起源・スペクトルの解釈・資源同定・安全・レゴリス探査機」という英語(Origin, Spectral Interpretation, Resource Identification, Security, Regolith Explorer)の略称となっています。
このオサイレス・レックスは、計画自体は2000年代中頃から提案されており、一時期は「はやぶさ2」よりも早く実施されるのではないかともみられていましたが、最終的には現在のスケジュールに落ち着いています。
本計画は、NASAの遠方天体の探査シリーズであるニューフロンティア計画の3番目のミッションです。なお、いちばん最初はニューホライズンズ、2つめはジュノーです。