打ち上げから40年経過し太陽系を飛行中のボイジャー探査機の想像図

打ち上げから40年経過し太陽系を飛行中のボイジャー探査機の想像図 (Photo: NASA)

いまから40年前、外惑星、そして太陽系のはるか彼方に向けて旅立っていった探査機、ボイジャー。
NASAはこのほど、このボイジャー探査機についての最新情報を発表しました。

ボイジャーは2機の探査機から構成され、それぞれ「ボイジャー1号」「ボイジャー2号」と呼ばれます。
ボイジャー1号は1977年9月5日に、ボイジャー2号は1号より早く、1977年8月20日に打ち上げられました。
ボイジャーの目的は、外惑星(木星・土星・天王星・海王星)の素顔を探ることにありました。
ボイジャー1号は1979年3月に木星を、1980年11月に土星を通過し、これまで人類がみたことがない、鮮明な写真を撮影することに成功しました。
ボイジャー2号は1979年7月に木星、1981年8月に土星を通過し、さらに1986年には天王星を、1989年8月には海王星を通過し、各天体の写真を撮影し地球に送りました。現在に至っても、天王星、海王星を間近に接近して撮影した探査機はボイジャー2号のみです。
ボイジャーの探査は、私たちの太陽系の知識を塗り替えたといってもよいでしょう。編集長(寺薗)も中学生だった当時、ボイジャーから送られてくる鮮明な木星や土星の画像に衝撃を受け、この世界(惑星科学、惑星探査)の世界に入ろうという決意をしたものです。それはそのような画像やデータを盛り込んだ、カール・セーガン博士のテレビ番組「COSMOS」(コスモス)の影響も少なからずあったでしょう。

ボイジャーの探査によって、私たちの外惑星に関する知識は飛躍的に増大しました。と同時に、より詳しく探査すべき、という機運も高まりました。それもあり、1990年代には木星にガリレオ探査機が、2004年には土星にカッシーニ探査機が送られ、それらの天体をより詳しく探査しました。
これらの探査によって、木星や土星、さらにはその衛星についての知識がさらに増えたことは確かですが、さらに多くの謎も生み出し、より詳細な探査を求める声があることも確かです。

さて、外惑星探査という大きな役割を終えたボイジャー探査機は、その後「太陽系の境界を探る」という、もう1つの役割が残されました。
ボイジャー探査機は、外惑星の探査を終えたあと、太陽系の縁へと向かって延々と飛行しています。そのため、いつかは太陽系の縁を横切ることになるというわけです。

2012年、ボイジャー1号は太陽系の境界を通過し、宇宙空間へと飛び出しました。人類が作った物体として、はじめて太陽系を飛び出した物体となったのです。
しかし、宇宙は広いのです。NASAによると、ボイジャー探査機が太陽から最も近い恒星までの距離を飛行するまでにはあと4万年かかるとのことです。気が遠くなる、というよりまず私たちには実感のない時間ですが、宇宙の歴史を考えると「あっという間」ともいえます。

NASAによると、ボイジャー探査機は人類が生み出した探査機として最も遠くにあり、また最も長命な探査機とのことです。実際、打ち上げから40年を経過した現在(2017年)においても地球との交信が毎日順調に行われており、探査機自身の状況や周辺の環境についてのデータが送られてきています。
特に太陽系を飛び出したボイジャー1号からのデータは、私たちが知らない恒星間空間の情報を得るための貴重なデータとなります。

現在ボイジャー1号の地球からの距離はおおよそ208億キロメートル。太陽-地球間の距離(天文単位)のおよそ140倍という遠さです。この距離で、ボイジャー1号は黄道面(惑星などが公転している面)に対し「北向き」で進んでいます。
探査機が送ってくる情報として重要なものの中に、宇宙線(光の速度に近いくらいまで高速に加速された原子)の強さがあります。現在ボイジャー1号が飛行している恒星間空間では、地球周辺の4倍くらいもの宇宙線が飛び交っています。
太陽系では、太陽から吹き出してくる高速の風「太陽風」(これも電気を帯びた粒子=荷電粒子からなっています)があり、これによって私たちは強烈な宇宙線からある程度守られています。この太陽風が影響を及ぼす領域が太陽系の広さを規定しているともいえ、この領域のことを「太陽圏」(ヘリオスフェア)といいます。
また、ボイジャー1号は、局所的な恒星間空間の磁気圏が、この太陽圏を囲むように存在していることも発見しています。

一方、後を追いかけるボイジャー2号は、地球から176億キロメートル(地球-太陽間の距離の約114倍)のところを飛行しており、ボイジャー1号とは逆に「南方向」へ飛行しています。ボイジャー2号はまだ太陽系の縁に到達していませんが、おそらくは数年以内に到達するのではないかとみられています。
このように、2つのボイジャー探査機がまったく別々の方向に飛行することによって、科学者たちは太陽圏が周りの後星間空間とどのような相互作用を及ぼしているか、磁場や低周波の電波、太陽風のプラズマなどが太陽系の縁でどのようになっているかをより詳しく調べることができます。
ボイジャー2号が太陽系の縁を通過すれば、科学者たちは「太陽系の境界」の新しい「サンプル」を得ることができるでしょう。

ボイジャー計画の初期から携わり、今もボイジャー計画を見守り続ける、ボイジャー計画のプロジェクト・サイエンティスト…というより「ボイジャー計画の父」といっても過言ではない研究者、エド・ストーン(エドワード・ストーン)博士は、ボイジャー探査機についてこのように述べています。
「40年前、私たちがボイジャー探査機を打ち上げたとき、まさか40年間探査機がもつとは誰も思っていなかった。そして、探査機が新しい世界を切り拓く旅を続けるとも予想していなかった。今後5年間、私たちが思ってもみなかったものを、ボイジャー探査機が見つけ出すかもしれない。」

エド・ストーン博士はやや謙遜気味に「40年もつとは思わなかった」と言っていますが、それはある意味、当時の科学者たち(もちろん博士も含めて)の探査機設計の素晴らしさによる部分が大きいといえるでしょう。
なにしろ、ボイジャーが飛行しようとするところは過酷な世界です。木星には太陽系最大の磁場があり、ボイジャー探査機はそこを通り抜けなければなりません。
それら外惑星の世界については当時まだよくわかっていませんでした。そのような環境にもしっかり対応できるように、そしてトラブルがあったときにも十分に対応できるように(ボイジャー探査機は、機器にトラブルがあっても代わりのシステムが動く「冗長系」というシステムを搭載しています)設計されています。このような、向かうべき宇宙空間を見据えたシステムのおかげで、ボイジャーは40年もの長きにわたって生き続けることができたといえるでしょう。

さらに、長い旅の間のエネルギー源の確保も重要な問題です。
ボイジャー探査機は太陽から遠いところを飛行するため、太陽電池を使うことはできません。そのため、原子力電池という仕組みによって電力を得ています。原子力電池とは、いわゆる「原子力発電」とは異なります。同じように放射性物質は使用しますが、原子力発電が放射性物質が崩壊する際の熱から蒸気を作って発電するのとは異なり、原子力電池はその熱を直接電気に変換します。
ボイジャー探査機が使用している放射性物質はプルトニウム238というもので、半減期が88年です。
「半減期」という言葉があるように、放射性物質も永遠ではなく、徐々に減っていきます。現在、ボイジャー探査機の発電量は年に4ワットずつ減っていきます。技術者たちは、この発電量の減少を通して、将来遠隔地に送られる探査機で、非常に少ない電力で装置を動作させるための技術を習得しようとしています。
さらに、ボイジャーの電力を最大限活かすため、40年前…いや、開発された当時は50年前…の文書をあたり、指令やソフトウェアに習熟し、探査機に対して最適な指示を送るようにしています。

「ボイジャー探査機が使用しているテクノロジーは何世代も昔のもので、探査機を運用し続け、将来にわたって生かし続けるためには、1970年代の技術に精通した技術者が必要になる。」(ボイジャー計画のプロジェクトマネージャー、ジェット推進研究所(JPL)のスーザン・ドット氏)

ボイジャーの電池、さらにいえばその源となる放射性物質は無限ではありません。また、ボイジャー探査機を運用し続けることができる電気を発電できなくなるときが、いつかやってきます。
ボイジャーのチームメンバーは、2030年までには最後の科学機器の運用を停止することになるだろうと予想しています。そしてそのとき、探査機は地球との通信もできなくなり、完全に沈黙することになるでしょう。
しかし、探査機はその後もずっとずっと、飛び続けていきます。はるかなる宇宙空間へと、探査機はあてもない旅に向かいます。探査機は現在時速4万8280キロ(秒速約13.4キロ)というスピードで飛行していますが、この速度をもってしても、私たちの銀河系を一周するには2億2500万年という途方もない時間が必要になります。

ボイジャーは、このあてどない旅のどこかで、私たちのような知的生命体に出会うこともあるかも知れません。そのようなときに備え、私たち人類、そして私たちが住む地球がどのようなものなのかを知らせるためのレコードを搭載しています。「ゴールデンレコード」と称されるそのレコードには、様々な言語によるあいさつ、古今東西人類が作り上げてきた音楽、地球上のさまざまな(自然の、あるいは人工の)音、地球の写真など、さまざまなものが収められています。
遠い遠い将来、ボイジャーに出会った知的生命体がこのレコードを解読し、私たち人類の存在を知ることになるかも知れません。

ボイジャー探査機に搭載されたゴールデンレコード

ボイジャー探査機に搭載された「ゴールデンレコード」のおもて面。地球の位置を知らせるための各種記号などが刻印されている。(Photo: NASA, 出典: https://www.jpl.nasa.gov/voyager/galleries/making-of-the-golden-record/)

これほどまでにロマンを誘うミッションがほかにあるでしょうか。いや、私たちはロマンを超えて、さらに遠くの世界への歩みを進めなければならない…ボイジャーの探査は、私たちにそう教えているようにみえます。
「40年もの長きにわたって成果を挙げ続けてきたボイジャーほどの探査はほとんどないと確信する。ボイジャーは、私たちに宇宙の不思議さを教えてくれた。そして、私たち人類に対し、太陽系、そしてその先の宇宙を探査することの重要さを強く認識させたと思う。」(NASA本部の科学ミッション部門副部門長、トーマス・ズブッケン氏)