1977年に打ち上げられ、木星、土星を探査、現在は惑星の領域を離れ宇宙の旅を続けているボイジャー1号が、ついに歴史的な瞬間を迎えました。太陽系を脱出し、恒星間空間に入ったのです。12日、NASAが正式に発表しました。
人類が作った物体が太陽系を離れ、別の世界へと旅立ったのは、ボイジャー1号がはじめてです。これはまさに、人類にとっても歴史的な瞬間であるといえます。
現在、ボイジャー1号は地球との距離が約190億キロあります。この距離は、交信に片道18時間かかります。つまり、電波(光)の速度でさえ、今ボイジャー1号がいるところまでは18時間もかかってしまうということなのです。

恒星間空間を旅するボイジャー(想像図)

恒星間空間を旅するボイジャーの想像図。Photo: NASA/JPL-Caltech

すでにこのブログでも何回かお伝えしてきましたが、ボイジャー1号はここ1年ほど、太陽系空間と恒星間空間との境目にある領域を飛行してきました。この領域は太陽系の周りに存在する「泡」のような領域で、荷電粒子と呼ばれる電気を帯びた粒子が存在しています。
現在ボイジャー1号がいるのは、この「泡」の領域のすぐ外の、太陽系空間から恒星間空間へと移り変わる場所です。まだ太陽の影響力はそれなりに残っています。
今回、アイオワ大学のプラズマ波解析チームと、ドン・ガーネット氏により、ボイジャー1号の観測データが詳細に解析され、太陽系脱出という結論が出ました。この発表は、12日に発行された科学雑誌「サイエンス」に掲載されています。

打ち上げから36年、ついにボイジャーが「我々の世界」を抜け、まったく知らない世界へと突入しました。ボイジャー計画のプロジェクト科学者であり、計画開始時からこの探査機をずっと見守ってきたカリフォルニア工科大学のエド・ストーン博士はこうコメントしています。「今回新しい、そして重要なデータを得たことから、我々は間違いなく、恒星間空間への人類の新しい一歩が記されたと確信している。ボイジャーのチームとしては、今回のデータを解析し、その意味を理解する必要はある。しかし、これまで常に言われてきた『我々はどこにいるのか』という質問に対しては、今やはっきりとこう答えられる。『そう、そこ(太陽系外)にいるんだ』と。」

ボイジャー1号が、太陽系の辺縁部に達したことを示す証拠である、太陽圏の境目での恒星間空間からの圧力増大の兆候を捉えたのは、2004年のことでした。この領域では、太陽からの荷電粒子の泡が太陽系を取り囲んでいています。この時点から、科学者たちは、ボイジャー1号が太陽系を脱出したかどうかをより詳しく調べようとしてきましたが、そのデータの解析や解釈には数ヶ月、あるいは数年かかることになりました。

ボイジャー1号は現在稼働しているプラズマのセンサーがありません。そのため、太陽系を脱出したということを判断するための重要な材料となるプラズマの変動については、別の方法を用いて判断することになりました。その良いチャンスが訪れたのが、2012年3月に発生した太陽の大規模な太陽風でした。
太陽の表面から出てくる太陽風は、荷電粒子などからなっているもので、通常でも我々の太陽系空間を「吹いて」います。しかし2012年3月に発生した太陽風はかなり大規模なものでした。そしてこれが、科学者にとっては「思いがけない贈り物」となったわけです。
2013年の4月になって、ボイジャー1号が飛行している領域にこの太陽風が到達しました。探査機周辺のプラズマが、まるでバイオリンの弦のように震えているさまが観測データにも捉えられました。4月9日、プラズマ波測定装置が動きを捉えます。観測された特徴的な振動の動きから、科学者はプラズマの密度を測定することができたのです。そしてその結果が決定的なものとなりました。探査機がいる場所でのプラズマ波、太陽圏の外縁部のものと比べて40倍も濃密なものだったのです。このような高密度のプラズマ波は通常、恒星間空間に存在するものです。

プラズマ波観測チームは、このデータを検証し、さらに2012年10月と11月に、より弱い振動がいくつか捉えられていたことを確認しました。これらのデータに基づいて、研究チームでは、2012年8月に、ボイジャーははじめて恒星間空間に入ったと結論づけました。

「この振動のデータを見たとき、私たちはまさにいすから飛び上がるくらい驚いた。なぜなら、データははっきりと、探査機が完璧に新しい領域(=恒星間空間)に進んだことを示していたからだ。恒星間空間で想定されることとほぼ一致していたし、少なくとも太陽系辺縁の泡領域のもの(データ)とは全く違っていたからだ。間違いなく私たちは、太陽系のプラズマと銀河系のプラズマとの境界面であるヘリオポーズ(編集長注=heliopause。太陽圏止面、太陽圏界面ともいう。太陽風と太陽系外の銀河系磁場とが混じりあい、境界領域を形成している場所。太陽系の辺縁)。を抜けたと考えている。」(ガーネット氏)


ボイジャー1号のプラズマ、荷電粒子の観測データを音声に変換したもの(Audio: NASA)

今回発表されたデータでは、荷電粒子の量について、突発的かつ持続的な変化が2012年8月25日に記録されています。ボイジャーのチームでは、このデータをもって太陽系脱出を示すものと一般的に考えており、この日が太陽系脱出の日であるとしているようです。荷電粒子の量の変化とプラズマの変化は、ボイジャー1号が太陽系を脱出する(した)かどうかを判断するための決定的な材料と考えられていました。

ボイジャーのプロジェクトマネージャーであるNASAジェット推進研究所(JPL)のスーザン・ドッド氏はこう述べています。「耐久性の高い探査機(ボイジャー)の製造と、限られた性能を保つ探査機の注意深い管理に、プロジェクトチームが日夜努力してきたことが、NASAそして人類初の偉業として、今日見事に報われた。私たちは、磁場、プラズマ、荷電粒子に関する観測機器のデータは、ボイジャーからは少なくとも2020年までは送信されると考えている。ボイジャー1号が送ってくるであろう、恒星間空間のデータを今から待ち切れない思いである。」

ボイジャー1号は、いまから36年前の1977年に打ち上げられました。打ち上げはボイジャー2号の方が先で8月20日に、1号はそこから16日遅れる形で9月5日に打ち上げられました。ボイジャー1号は木星と土星、ボイジャー2号は、同様に木星と土星を探査したほか、天王星、海王星の探査を実施しました。現在ボイジャー2号は、最も長期間にわたって運用されている探査機となっています。ボイジャー2号の地球からの距離は現時点で約150億キロとなっています。

現在でも、ボイジャー1号及び2号からのデータは毎日受信されています。ボイジャーに搭載されている送信機の出力はたった23ワット、小さな白熱電球くらいの力しかありません。地球に届く際のエネルギーは、現時点では10億分の1の10億分の1ワットという、とてつもなくかすかなものとなっています。ボイジャー1号からのデータは現在は1秒間に160ビットという、これまたとてつもなく遅いスピードで送信され、NASAの深宇宙ネットワークのアンテナで捉えられています。
深宇宙ネットワークの巨大な(34メートル及び70メートルの)アンテナで捉えられたこれらのデータは、JPLのボイジャー運用チームに送られ、最終的には一般にも公開されるようになります。

「ボイジャー1号は果敢にも、これまでどんな探査機をも赴いたことがない世界へと旅立っていった。これは、長い科学の歴史において私たちが達成した重要な技術的な到達点の1つであり、人類の科学の夢、そしてそれに向けた努力に、新しい1ページを加えるものである。おそらく将来、深宇宙を旅する探査者がボイジャー1号を捉え、この勇敢なる旅人が、彼らの旅をどのように支えたのかに思いを馳せることになるだろう。」(NASAの科学部門副長官であるジョン・グランスフェルド氏)

現在のところ、ボイジャー1号がいつ、太陽の影響のない、恒星間空間の落ち着いた場所に到達するかについては科学者もわかっていません。さらに、ボイジャー1号に引き続いて太陽系の果てへの旅を続けているボイジャー2号がいつ、恒星間空間へ脱出するかについても見通しは不明です。しかし、科学者によれば、それはそう遠い将来ではないと考えています。

ボイジャーの恒星間空間探査については、NASAの科学ミッション部会の太陽物理学部門が出資する、NASAの太陽物理学観測所が参画しています。
ボイジャー1号及び2号の打ち上げ、運用、原子力電池などに要した全ての費用は9億8800万ドル(日本円で約982億円)です。この費用は2013年9月までのものです。