冥王星の大気が作る「リング」

冥王星の大気が作る「リング」。大気が太陽光に照らされることでできる光景。(© NASA/JHUAPL/SwRI)

50億キロ彼方の冥王星から、新たな絶景が到着しました。といいましても、今回は表面ではなく、冥王星を取り巻く大気です。
25日、NASAは新たなニューホライズンズの画像を公開しました。今回は、ニューホライズンズが冥王星再接近から7時間後、冥王星を振り返って撮影した写真を公開しました。まるで皆既日食の写真のように、冥王星の大気が太陽の光に照らされて明るく浮かび上がる姿は、幻想的とさえいえます。

この写真は、ニューホライズンズの広範囲カメラ(LORRI)によって撮影されました。後ろを振り返りながら取りましたので、ちょうど「バックライト」(背景の光)により照らされた形です。冥王星の大気ともやは、冥王星の表面から高さ130キロほどのところまで広がっていると考えられます。この写真を暫定的に解析したところ、もやの層は2つあることがわかりました。1つは高さ約50キロのところ、もう1つは高さ約80キロのところにあるようです。

冥王星の大気の研究は、実は地表と大きく関係しています。あの地表の赤い色の起源は、実は大気にあるというのです。ジョージ・メーソン大学の科学者で、ニューホライズンズのチームに属する科学者であるマイケル・サマーズ氏は、「この写真で捉えられているもやは、冥王星の表面の赤い色を作り出している複雑な炭化水素化合物を作り出す際の鍵となる物質である。」と述べています。

冥王星の大気中のもやを作り出すのは、遠く離れた太陽の光だと、大気モデルの研究からは考えられています。太陽の光に含まれれる紫外線によって、大気中のメタンが化学反応を起こし、エチレンやアセチレンといった複雑な炭化水素ガスに変化していきます。こういった複雑な(といっても、有機物などに比べればまだはるかに単純です)ガスが冥王星の大気中には発見されています。
こういった炭化水素化合物がだんだん大気の中を加工していくと、氷の粒と結びついてもやを作るのではないかと考えられます。こういった粒に紫外線が当たると、化学反応により「ソリン」(tholin)と呼ばれる有機化合物へと変化していきます。これが、冥王星の赤い色のもととなっているのです。
科学者は事前の大気モデルの計算から、もやを作るためには冥王星の大気30キロ以上では温度が高すぎると考えていましたので、こんかい、このモデル、計算を見直す必要に迫られています。
「何が起きているのかを知るためには新しいアイディアが必要となる」(サマーズ氏)

ニューホライズンズ計画の主任科学者であるアラン・スターン氏は、「今回の冥王星の大気の画像をみてあごが落ちるほどびっくりした。今回の写真をみて、探査というのはただ新しい発見をもたらすだけでなく、新しい『美』ももたらすということがよくわかった。」と述べています。確かに、まるで最果ての地に存在する美しい指輪のようなこの写真は、太陽系の美しい光景として今後永遠に記憶されていくことでしょう。

  • NASAのプレスリリース