意外に思われるかも知れませんが、実は、冥王星の大きさについて、これまで確定した値はありませんでした。いや、意外ではないかも知れません。ハッブル宇宙望遠鏡をもってしてもみえる大きさは限られ、ましてや地上からの観測ではさらに難しくなります。
しかし、この長年続いた論争も今日で終わりです。NASAは14日、冥王星の正確な大きさについて、直径2370キロであると発表しました。これまでは「約2400キロ」という値が使われてきましたので、それに比べてほんの少しだけ小さな値ということになります。

7月11日に撮影された冥王星と衛星カロン(カラー写真)

7月11日に撮影された冥王星と衛星カロン(カラー写真) (© NASA/JHUAPL/SwRI)

今回の大きさの測定には、ニューホライズンズ探査機に搭載された広範囲カメラ(LORRI)の画像が使われました。地球の月の半径は1738キロですから、直径に直すと3476キロとなり、冥王星よりも地球の月の方がはるかに大きいということがわかります。
地球と比べると、地球の直径は12756キロメートルですから、地球の約18パーセント、ざっとした値としては6分の1くらいと考えればよいでしょう。

実は冥王星の大きさについては、発見された1930年以来論争が展開されてきました。冥王星は、当初天王星、海王星に続く太陽系の外側の天体であると考えられていたため、それらと同じくらいに大きなものであると推定されていました。その後、徐々にこの考えは修正されていきましたが、それでも「相当な大きさである」ということが言われ続けてきました。1970年代までは、冥王星の大きさは地球と同じくらいだと考えられていたのです。冥王星に大気があり、周辺が「ぼやっとしていた」ことも、正確な直径の測定を阻む要因でした。
1978年、冥王星に「双子惑星」ともいえる大きな衛星カロンが発見されます。カロンと冥王星の公転の様子を詳細に調べることで、冥王星の大きさをある程度推定できるようになります。また、カロンが冥王星に隠れる「掩蔽」という現象を利用することで、冥王星についてかなり正確な大きさを求められるようになりました。
科学者の中には、「このまま冥王星の大きさが減少すると、冥王星はそのうちなくなってしまうのではないか」と冗談をいう人までいたくらいです。

今回の観測により、冥王星の質量そして密度もわかってきました。密度はこれまで考えられていたよりも少し小さな値で、このことは、冥王星内部の氷(窒素やメタンの氷。軽い物質)がこれまで考えられていたよりも多いことを意味します。
また、冥王星の大気のいちばん下の層、いわゆる「対流圏」(もっとも、地球の用語をそのまま当てはめているだけですので、地球の大気の「対流圏」とはかなり性質が異なると思いますが)についても、これまでの推定より深さが小さいことがわかりました。

さらに、より小さく観測が難しいカロンについても、このたび直径の測定に成功しました。今回測定されたカロンの直径は1208キロメートルです。

LORRIは、さらに冥王星にある5つの衛星のうち、2005年に発見されたニクス(Nix)とヒドラ(Hydra)についても観測を行っています。共に2005年、ハッブル宇宙望遠鏡による観測で発見された衛星ですが、この人類最強の望遠鏡をもってしてもこれらの衛星は点でしかなく、大きさを調べることなど全くかなわないことでした。
今回、ニックスは直径約35キロ、ヒドラは直径45キロと測定されました。両者ともに表面がかなり明るいことから、氷(例によって窒素やメタンの氷)でできていると推定されます。

さて、残り2つの衛星であるケルベロス(Kerberos)とスティクス(Styx)についてはどうでしょうか。これらはニックスやヒドラよりも暗いために測定が難しく、今後の観測、そして今後ニューホライズンズ探査機から送られてくるデータが頼りになることでしょう…と期待したいところです。

地球と冥王星とカロンの比較図

地球上空に冥王星、そして衛星カロンがあった場合の大きさの比較想像図。地球の中央にある赤い星が冥王星、その下にある暗い星が衛星カロン。地球表面に影が落ちているのは映像効果。(© NASA/JHUAPL/SwRI)

<おことわり: 冥王星の衛星名の表記について>
冥王星の衛星名については、天文学の一般的な慣例に従い、本記事における日本語での表記はラテン語名としています。いくつかの報道では英語名を用いているとこもあります。以下、その対象リストです。
カロン(Charon)…シャロン(英語)、ニクス(Nyx)…(英語でも同じ)、ヒドラ(Hydra)…ハイドラ(英語)、ケルベロス(Kerberos)…カーベロス(英語)、スティクス(Styx)…(英語でも同じ)

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