NASAはこのほど、2016年に打ち上げられる予定の月・惑星探査計画について、火星内部探査計画、土星の衛星タイタンの探査計画、そして彗星核探査計画の3つを選定しました。
この3つの計画は、NASAが1992年以来実施している「ディスカバリー計画」という探査プログラムの一環で行われています。このディスカバリー計画は、従来の月・惑星探査が大型化し、費用と時間がかかりすぎてしまうようになったことの反省から、低予算、高頻度、短期での打ち上げを目指すものです。
これまでに、このディスカバリー計画のプログラムに沿って打ち上げられた探査機には、月探査機のルナープロスペクター、水星探査機のメッセンジャー、小惑星探査機のニアー・シューメーカーなどが11個があります。
ほぼ2〜3年に1度選定が行われるこの計画、今回は2010年6月に提案募集が実施され、寄せられた28の提案についてNASAの科学者、技術者が審査、今回の3探査の選定に至ったものです。
選定された探査は以下の通りです。

  • 火星物理探査監視ステーション(GEMS: Geophysical Monitoring Station)
    火星内部の構造や物質組成の調査を行うと共に、火星を含む地球型惑星の形成や進化の過程を調べるものです。JPL所属のブルース・バーネット氏が探査責任者となり、JPLが探査全体を管理します。
  • タイタン表層海探査 (TiME: Titan Mare Explorer)
    土星の最大の衛星タイタンを探査し、その表面にあると思われる海に着水します(正確には、メタンなどでできていると考えられるので「着メタン」ですが)。プロクセミー研究センターのエレン・ストーファン氏が探査責任者となり、ジョンズホプキンス大学応用物理研究所が計画全体を管理します。
  • 彗星ホッパー (Comet Hopper)
    彗星に複数回着陸し、太陽光との相互作用による彗星核の変化を観測することで、彗星の進化などを探る計画です。メリーランド大学のジェシカ・サンシャイン氏が探査責任者となり、NASAゴダード宇宙センターが計画全体を管理します。

これらの探査計画に対しては、その研究チームが300万ドル(24億円)をNASAより支給され、探査コンセプト及び初期デザイン・調査を行います。その後、2012年に最終的にこのうちから1つを選定した上で、2016年の打ち上げを目指します。打ち上げ費用は4.25億ドル(約340億円)と見積もられています(但し、打ち上げ機の費用を含まない)。
今回の選定に関し、NASAのチャールズ・ボールデン長官は、「教科書を書き換えるような発見のために、NASAはこれからも科学探査を推進していく。このような探査は、私たちの知識をはるかに広げるために貢献するものであり、私たちの手を太陽系へと広げ、さらには次の世代の探求者を鼓舞するものである。」と述べています。
また、以下の3つの探査については、技術検討段階に入ることが承認されました。今後各チームは、数年をかけて提案をさらに練り直し、提案をより高いレベルにまで高めることが必要とされます。その上で、提案が通るためには、各チームは探査計画がより高いレベルにまでなっていることを実証することが求められます。

  • 始原物質探査計画 (PriME: Primitive Material Explorer)
    極めて精密な質量分析計を開発することで、彗星核の内部物質を調べ、その揮発性物質の起源について明らかにしようというものです。テキサス大学のアニタ・コクラン氏が探査責任者です。
  • ホイップル (Whipple)
    遮光星蝕(blind occultation)という現象を太陽系の外縁部から観測することで、太陽系外縁天体の発見を目指そうというプロジェクトです。スミソニアン天体物理観測所のチャールズ・アルコック氏が探査責任者です。
  • ネオカム (NEOCam)
    地球近傍小惑星(NEO: Near Earth Asteroid)の起源と進化を調べるため、望遠鏡を開発し、さらには地球衝突へのリスク調査も目指します。赤外線による観測と、地球近傍小惑星のカタログ化も行います。JPLのアミー・マインザー氏が探査責任者です。

・NASAのプレスリリース(英語)
  http://www.nasa.gov/home/hqnews/2011/may/HQ_11-132_Future_Plantary.html
・ディスカバリー計画(英語)
  http://discovery.nasa.gov/index.cfml