中国の火星探査機「天問1号」が6つの「初」を達成したと、人民網日本語版が伝えています。なおこの「初」は世界初ではなく「中国初」です。
こちら、中国国家航天局の許洪亮報道官が述べたものです。

火星に着陸した「天問1号」着陸機とローバー

火星に着陸した「天問1号」の着陸機とローバー(着陸機上に搭載)の想像図。
Photo: © CNSA/Xinhua

この記事によると、6つの「(中国)初」とは、

  1.  初のホーマン遷移軌道による探査機の打ち上げ
    ホーマン遷移軌道とは、惑星探査でよく使われる軌道で、地球から最もエネルギーが少ない形で目的地に到達できる軌道のことです。これまで深宇宙に向かった中国の探査機としては嫦娥2号がありますが、これは月探査機を深宇宙へと向かわせた形でしたので、ホーマン軌道ではありません。
  2.  初の惑星間飛行
    地球→火星という飛行という意味での惑星間飛行と思われます(上記の嫦娥2号を参照)。
  3.  初の地球外惑星への軟着陸
  4.  初の地球外惑星の表面探査
  5.  初の深宇宙通信(4億キロメートル離れたところからの正確な位置を示す通信という意味か)
  6.  初の火星の一次科学データ収集

とのことです。

これらは火星探査が成功したことと同義ではありますが、6つの「初」という形での公開で成功を鼓舞する意図があるのかと思います。

許報道官は、「(中国は)初めて1回の任務で周回、着陸、探査の3大目標を達成した。」と述べていますが、この点はまさに世界初の方です。初挑戦で3つの探査手法を同時に成功させたのは世界初だからです。
報道官の声明では「多くの難問に直面した」が、それを解決し、「中国が惑星探査の分野で世界の先進水準に飛躍したことを象徴する」ことになったと述べていますが、この点、中国が月探査「嫦娥計画」をはじめとした宇宙探査で経験を積み重ねてきたことが大きいと思います。

なお、この記者会見では重要な発言がありました。
許報道官によると、

  • 2025年頃に、地球近傍小惑星からのサンプルリターンとメインベルト彗星の周回探査
  • 2030年頃に、火星からのサンプルリターン探査を実施
  • 時期は明示されていないが、木星の周回探査を実施

という目標が示されました。

このうち、地球近傍小惑星からのサンプルリターンについては、すでにこれまでも情報が出ていて、2022年頃打ち上げとみられていました。今回2025年頃との目標が明示されたことで、少し計画が遅れるようですが、小惑星サンプルリターンに中国も挑む計画であることがわかります。
なお、同時に示された「メインベルト彗星の周回探査」というのが、小惑星帯の小惑星(の中で、彗星のような挙動を示す小惑星)の探査なのか、この記事だけからですとよくわかりません。より詳しい情報が待たれるところです。

また、メインベルト彗星探査と小惑星サンプルリターン探査機が同じ1つの探査機で行われるのか別の探査機になるのかもわかりません。常識的に考えれば、地球近傍小惑星とメインベルト小惑星(彗星)を1つの探査機で行うことはないので、2つの探査機を打ち上げることになるとは思いますが、設計を共通化させるなどの工夫で開発期間の短縮、予算の削減を目指す可能性はあります。

また、火星からのサンプルリターンも当初は2028年の打ち上げウィンドウを狙うと考えられていましたが、もう少しあとになるようです。

木星探査も以前から話が出ていたものではありますが、月や火星探査に比べるとさらに難易度が高くなることから、方法や打ち上げ時期について慎重に検討しているものと考えられます。

いずれにしても、今回の天問1号の成功を期に、中国は月・惑星探査、とりわけ惑星探査により積極的に乗り出す方向のようです。