以前お伝えした通り、中国は2020年に火星探査を計画しています。この探査は中国初の、独自の火星探査となります。
この火星探査がいよいよ動き出すようです。このほど人民網日本語版が火星探査についての詳細な記事を掲載しましたが、それによると、2020年の中国の火星探査は、周回・着陸・ローバー(現記事では「巡視」となっていますが、これはローバー探査のことかと思われます)という3つの探査を一度に行うということになるようです。
記事では「このような形式が海外で実現されたことはない」とありますが、複数探査機での周回・着陸・ローバー探査は、例えばエクソマーズなどで実現される予定ですし、かなり古いですが1970年代のバイキング探査も周回と着陸機による探査でした。1機の探査機が火星を周回し、着陸したあとローバーでの探査を実施するとなると、確かに例はありません。

このあたり、裏にはインドに対抗する目的もあるようです。記事で出てくる中国航天科技集団の葉培建氏(中国の月・惑星探査の「大御所」ともいえる人物のようで、よく名前が出てきます)の発言は、「インドの火星探査機マンガルヤーンは、火星赤道軌道を周回しただけだが、中国初の火星探査機は火星の大楕円形軌道を飛行し、火星全体を観測する。さらにローバーを搭載した着陸機が火星に下り、ローバーが火星を走行する」となっています。
つまり、インドの探査機は周回だけしか行わないが、中国は着陸も行う、として、中国の火星探査の優位性を強調する形になっています。
興味深いのは、この発言の中で「大楕円形軌道を飛行」という言葉が出てくるということです。
通常、火星の周回探査を行う場合には、全休を均一に観測することを目的として、円軌道(高度が一定の軌道)を飛行することになっています。ただ、そのような円軌道に探査機を投入するためには、軌道計画が複雑になったり、探査機に搭載する燃料が増えるなどといった問題が出てきます。実際、そのマンガルヤーンも、火星にもっとも近い点が高度約360キロ、いちばん遠い点が高度約8万キロという非常に大きな楕円軌道(超楕円軌道といいます)を飛行しています。
おそらく中国の火星探査は、まずこのような長楕円軌道に探査機を投入したあと、しばらく飛行して火星を探査、その後一定の年月が経ったあとに着陸し、着陸機の中からローバーを引き出して探査するという形であろうと推定されます。

今回の火星探査に関する発表は、中国の宇宙開発の中心組織である中国国家航天局の許達哲局長が、「中国宇宙の日」に関する記者会見の中で明らかにしたものです。それによれば、2020年は中国の第13次五カ年計画の最終年にあたり、そこに打ち上げのタイミングを設けるとのことです。
もちろん、いくら五カ年計画に合わせるといっても、火星に行ける都合のよいタイミングと五カ年計画とが並行して動くというわけではありません。火星に探査機を打ち上げる好機は2年に1回やってきますが、今年(2016年)はまさにその好機にあたり、次は2018年、その次がちょうど2020年です。五カ年計画の最終年と都合よく一致したというわけです。

なお、人民網日本語版では、火星探査を手放しで喜んでいるわけではなく、そこにある技術的な課題についても触れています。まとめますと、

  • 探査機が遠距離であるため、自律的な制御技術を開発する必要がある。
  • 火星の大気に突入して減速するための技術。
  • エネルギー確保(火星は太陽から遠いため、太陽電池によってエネルギーを得る場合には、より大きな発電面積を必要とし、それは探査機の大型化につながります)。

といった点が挙げられています。
ただ、中国はこういった点についても着実に技術を磨いています。月探査機の嫦娥2号は、月探査の使命を終えた後に深宇宙探査へと挑み、すでに地球から1億キロ以上も離れた場所を飛行しています。こういった遠距離の探査機との通信や自律機能の実験も着実に行われていると考えるのが適切でしょう。
大気圏へ突入し、パラシュートなどを使って減速する技術は、中国はまだ開発していないと思われますが、その一部の技術はICBM(大陸間弾道ミサイル)の技術を使う可能性もあります。
さらに、ローバーについても、嫦娥3号で月面での長時間運用記録を達成するなど実績はあります。
以上を考え合わせると、中国の2020年の火星探査は、もうひと頑張りすれば十分に達成できるのではないかと考えられます。

なお、探査機の打ち上げは、中国の新しい大型ロケットである長征5号で行われる予定です。打ち上げ場所については記事では言及されていませんが、おそらくはこれまた新しく作られた海南島の海南宇宙センターになるのではないかと思われます。