これまで何回か、このブログでも「中国が2020年に火星探査に乗り出す」という記事を出してきましたが、ようやく公式にアナウンスが出ました。中国宇宙開発のトップが、正式に2020年の火星への探査機打ち上げを言明しました。英字紙チャイナ・デイリーが報じています。

これは22日、中国の宇宙開発機関である中国国家航天局の許達哲局長が会見で認めたものです。許局長によると、中央政府は1月11日に火星探査ミッションを承認し、現在2020年打ち上げを目指して計画を進めているということです。なお、火星探査の好機は約2年に1回訪れ、今年がまさにその年です。次が2018年、そしてその次が2020年となります。

記者会見する許局長

22日、記者会見する許局長 (チャイナ・デイリーより)

計画によると、中国の火星探査計画は火星の土壌の分析、環境や大気、水などについての調査を目指すとしており、新たに制定された4月24日の「宇宙の日」に際して北京で声明を発表するとのことです。

中国で探査機製造の中心的な役割を担う中国空間科学技術院に所属する科学者であるPang Zhihao氏は、火星探査に関して中国はこれから様々な試練に直面するだろうと語っています。「探査機は9ヶ月間飛行し火星の周回軌道に入る。火星と地球は最も近づいたときでさえ5000万キロも離れているからだ。その9ヶ月間、探査機のシステムがしっかりと機能するように設計・製造しなければならない。」

さらに問題なのが、探査機の追跡・管制です。地球から遠いところにいる探査機との通信を保ち、またコマンドなどの指令を送るというのは実際かなり高度な技術となります。
さて、そこで出てくるのが月探査機「嫦娥2号」です。
嫦娥2号は、月を周回したあと、月を離れ、深宇宙へと続々と旅を続けています。その途中では小惑星トータティスにもフライバイ、写真撮影などを行ってきました。今や嫦娥2号は地球から1億キロ以上も離れており、まだまだ活動を続けるようです。
さて、この嫦娥2号の経験は、火星探査にも大いにフィードバックされることになります。Pang氏も、嫦娥2号で培われた深宇宙通信技術が、今回の火星探査計画に生かされると述べています。

さらに、火星探査の困難はそれだけではありません。火星の大気圏内に突入するというのが最も難しいことでもあります。
「最も難しいのは、探査機の火星大気への突入だ。さらに、これまでの火星探査では、周回機と着陸機を一度に投入することには成功していない(編集長注: 1970年代のバイキング探査機は周回機と着陸機を同時に送り込んでいます)。近年では、2003年に打ち上げられたヨーロッパの探査機「マーズ・エクスプレス」は、周回機と着陸機を送り込んだが、着陸機は降下途中で行方不明になっている。

同じく中国空間科学技術院で嫦娥3号のローバー「玉兎」の開発を主導したJia Yang氏は、今回中国が火星に送り込むローバー(中国は火星探査に関しては、周回、着陸、ローバーの3つを同時に狙うようです)は6輪で、玉兎よりは若干大きく、火星表面の大きな岩の存在に対応して障害物回避能力を向上させていると述べています。この発言からも、ローバーの開発はかなり進んでいるとみてよいでしょう。

これまでこの月探査情報ステーションブログでも、中国の火星探査計画については盛んに取り上げてきましたが、中国国家航天局の局長が正式に認めたことで、その存在は公式に明らかになったとみてよいでしょう。
懸念されるのは打ち上げまで4年しかないという点ですが、上記のローバーについての発言や、深宇宙通信の嫦娥2号での経験などからみて、中国は相当に火星探査に必要となる技術を熟成させていると考えてよいでしょう。逆にいいますと、技術的に機が熟したタイミングをみて、火星探査を決断したと考えてもよいでしょう。この点、火星に先に探査機を送り込むという点では(アジア諸国では)インドに先行されたとはいえ、焦らずに技術的な要点をしっかりと詰めてきているということは、中国がそれだけ火星探査に並々ならぬ決意を持っていることを意味しているといえるでしょう。
これまで情報が漏れ伝わってきた、というのも、裏返していばそれだけじっくりと時間をかけて技術を開発してきた(ただ、他国への牽制もあったのか、あまり積極的に表に出すことはしない)ということだったのでしょう。

2020年ですが、この年アメリカが大型ローバー「マーズ2020」を打ち上げる予定です。また日本が火星の衛星探査を狙っていますが、この打ち上げは2020年、あるいは2022年となる可能性があります(開発に要する時間などからみて後者の可能性が高いでしょう)。
これまで火星探査に「冷淡」と思われてきた中国が火星に舵を切ったことは、世界の月・惑星探査の潮流が一気に火星へと流れ始めた−−−あるいは世界の火星探査の潮流に中国も乗った、ということがいえるでしょう。日本も一応「火星衛星探査」という形で加わってはいますが、その影響力が世界に対してどのくらいのものになるかは未知数です。

このような火星探査の勢いは、アメリカが唱える2030年代での有人火星探査、さらには有人火星探査を国際宇宙ステーションの後釜にしようという「ポストISS」の動きとも絡んでいます。そのあたりについては、以前私がsorae.jpにコラムを執筆しましたので、そちらを詳しくお読みいただくのがよいでしょう。

いずれにしても、中国はこれで、地球近傍の有人宇宙開発、月探査に加え、第3の柱として火星探査を手に入れます。さらに小惑星探査についても計画しているという情報もあり、まさに習主席が唱える「宇宙大国」への道を盤石なものとしようとしているようです。ただ、それが一筋縄でいくのかどうか、技術的、経済的な面から状況をしっかりとみつめていくことが必要です。

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