NASAは24日、長期にわたって通信途絶の状態が続き、通信を試みてきた火星探査機「フェニックス」について、探査終了を宣言すると共に、「マーズ・リコネサンス・オービター」(MRO)の写真をもとに、探査機の太陽電池パネルに損傷が起きた可能性があると発表しました。
先週、NASAの火星探査機、「2001マーズ・オデッセイ」が「フェニックス」の着陸点上空を61回にわたって飛行し、通信を試みましたが、「フェニックス」との通信はできませんでした。昨年より似たような試みを合計150回以上行ってきましたが、探査機との通信は行えませんでした。
「フェニックス」は2008年5月25日(アメリカ東部時間)に着陸し、予定されていた3ヶ月に加え、さらに2ヶ月の延長探査を実施しました。しかしこの探査機はもともと火星の冬の気候を乗り越える装備は持っていません。そして着陸した場所は、火星の北極に近い場所でした。にもかかわらず、冬期が終わったあと、太陽光が回復し、探査機が機能を回復しているというわずかな可能性は残されていました。
このほどMROが撮影した「フェニックス」の写真をみますと、以前からあった長い影がみられず、これは探査機に何らかの損傷が起きていることを意味していると思われます。「フェニックス」、及びMROのカメラの両方の科学者であるコロラド大学ボールダー校のマイケル・メロン氏は、「おそらく探査機にちりが積もって、見分けにくくなってしまったのではないか」と述べています。
また、地球上で行われた、「フェニックス」の耐久予測でも、同様の結果が示されています。その予測では、二酸化炭素の氷(いわゆる「ドライアイス)が太陽電池パネルの上に降り積もることで、パネルがおれる、または曲がってしまうという予想が出ています。メロン氏の予想によると、数百キログラムの氷が冬の間に降り積もった可能性があるということです。
「フェニックス」は、探査期間中に、火星の地下に大量の氷があることなど、さまざまな発見を成し遂げました。これは、「2001マーズ・オデッセイ」が上空からの探査で予想していたものでもあります。また、氷が溶けてできる水の存在を示唆する、炭酸カルシウムも発見しています。また、生命の発見につながるような土壌の化学組成についての発見を成し遂げたほか、雪が降っていることも確かめました。また、過塩素酸塩という、あまり生命とは相容れないような物質が火星の土の中にあることも確かめました。これはもっとも驚くべき発見でもあります。
この過塩素酸塩については、この先、宇宙生物学の進展にも大きな影響を与えるでしょう。この過塩素酸塩は寒さに強い(訳注=おそらく塩化物と同様、融点を下げるという性質をいっているのだと思います)性質があり、また微生物にとってエネルギー源となる可能性もあるからです。さらに、MROは最近になって、より低緯度の中緯度地域に、大量の氷の堆積物が存在することを、レーダーにより発見しています。
「フェニックス」の主任科学者で、アリゾナ大学ツーソン校のピーター・スミス氏は、「氷が多い環境は火星の中で思っていたより広く存在することがわかった。この広い領域のどこかに、生命をはぐくむことができそうな領域が存在するだろう。」と語っています。
なお、今回の「フェニックス」探査終了で、火星表面で活動している探査機は、「マーズ・エクスプロレーション・ローバ」2台だけとなりました。周回機は、「2001マーズ・オデッセイ」「マーズ・エクスプレス」「マーズ・リコネサンス・オービター」が稼働しています。
・NASAのプレスリリース (英語)
  http://www.nasa.gov/home/hqnews/2010/may/10-120_Phoenix_Finished.html
・フェニックス (月探査情報ステーション)
  https://moonstation.jp/ja/mars/exploration/Phoenix/
・マーズ・リコネサンス・オービター (月探査情報ステーション)
  https://moonstation.jp/ja/mars/exploration/MRO/
・2001マーズ・オデッセイ (月探査情報ステーション)
  https://moonstation.jp/ja/mars/exploration/2001MO/