火星探査機フェニックスが、このほど、搭載されている顕微鏡を使って、火星のダスト(ちり)の写真をとらえることに、火星探査史上はじめて成功しました。
このダストは1マイクロメートルほどの大きさの丸い粒子です。このダストは、火星の表面を覆い尽くしているダストのうちの1つです。このようなダストが火星の大気中に舞い上がることによって、火星の空はピンク色に染まっていて、火星全体を覆う砂嵐が起き、さらに火星の特徴的な赤い土ができあがります。
「粘土くらいの大きさの火星の粒子がとらえられたのははじめてだ。また、大きさは、火星の日の入りの際の色から推測されている大きさとほぼ一致している。」と述べているのは、今回検出に使われた顕微鏡を作ったスイスのチームを率いている、フェニックス計画の共同研究者でもある、スイスのノイカテル大学のウルス・スタウファー氏です。
「この写真を撮るために、地球の外で顕微鏡を最高の解像度で動作させ、さらにちりを保持しておくために、特別な機材を作る必要があった。このような写真を撮ることが、技術的な観点から大変な挑戦であるということを私たちは常々認識していた。」(フェニックス計画の科学チームメンバーである、ロンドン王立大学のトム・パイク氏)
約3億5000万キロも離れた火星の極地で動作する機器の開発には、長い時間、ざっと見積もっても十数年の時間を要しました。
原子間力顕微鏡は、スプリングの先端にあるとがった台の上にある粒子の形を、3次元で詳細にスキャンすることができる能力を持つ検出装置です。このスキャンの間、目に見えないほど小さな粒子は、シリコンのウェハを使って微細に織り込まれた基板の上の穴に置かれます。この基板はマイク氏たちのグループによって開発されました。
原子間力顕微鏡は、粒子の形を100ナノメートル(0.0000001メートル)の精度で明らかにすることができます。これは実に、人間の髪の毛の太さの1000分の1にもあたります。また、フェニックス探査機が搭載し、2ヶ月前に火星の土壌の初めての顕微鏡写真を送ってきた光学顕微鏡の、約100倍以上の精度を持っています。現在までのところでは、他の惑星で最高精度の写真を撮影した装置は、この光学顕微鏡でした。
スタウファー氏はこう述べています。「この(原子間力)顕微鏡が、私たちの火星に関する理解を、非常に細かい詳細な領域において助けてくれるであろうことを非常に喜ばしく思う。これはこの顕微鏡の能力を示すものだ。私たちは、これまでフェニックス探査機の他の観測装置が成し遂げてきた発見を新たな角度から検証するための、次なる科学実験を行おうとしている。」
パイク氏はこう述べています。「この最初の成功のあと、私たちは火星のダストに関するギャラリーを作る作業に取りかかっている。」
火星の非常に細かいダストは、火星の大気と土壌とを結ぶ役割を果たしているとみられており、火星の環境を理解するためには、このダストについての理解を深める必要があるというのが、専門家の意見です。
原子間力顕微鏡で撮影された粒子は、「スノーホワイト」と名付けられたサンプル採集用の溝を掘削したときに得られたもので、7月はじめにフェニックスの顕微鏡ステーションに運ばれてきました。この顕微鏡ステーションは、フェニックスが搭載しているいろいろな顕微鏡が集まっているもので、この顕微鏡のほか、光学顕微鏡、さらにはそれらに試料を供給する試料供給皿からなっています。また、この装置は、フェニックスの顕微・電子化学・電気伝導度測定器(MECA)の一部でもあります。
・JPLのプレスリリース
  http://www.jpl.nasa.gov/news/news.cfm?release=2008-158
・フェニックス (月探査譲歩数手ーション)
  http://moon.jaxa.jp/ja/mars/exploration/Phoenix/