今まで意外と伝えられることが少なかったロシアの月探査の情報が入って来ました。ロシアが、2030年代をめどに有人の月面基地の構築を目指しているとのことです。また、それに向けた無人の月探査構想として、往年…といっても1950〜1970年台ですが…の「ルナ」シリーズを復活させる可能性があるとのことです。イズベスチアの報道を、「レスポンス」が伝えています。

このレスポンスの記事によると、まずは2016年ころから無人探査機を連続して打ち上げ、2030年代からは月の南極地域に月面基地の構築を開始、2040年台には月面基地を備えた本格的な基地へと歩を進める構想が練られています。
ロシアの月探査は3つの段階を踏んで行われることとしており、第1段階は無人、第2段階以降は有人ということになるようです。
この第1段階の無人探査では、これまでロシアの月探査としてたびたび名前が上がってきた(しかもたびたび延期されてきた)「ルナ・グローブ」が含まれています。
無人探査は4機からなり、いわばルナ・グローブを「切り分けた」形で何回かの探査を行うという計画です。そしてこの4機の探査機は、1976年に探査を終了したロシアの無人月探査機シリーズ「ルナ」の後継として、その名前と番号を引き継ぐことになるようです。

「ルナ」シリーズは1976年8月に打ち上げられた24号が最後ですが、今回の探査機はいずれも「ルナ25号」から「ルナ28号」となり、以下のような形になるとのことです。

  • ルナ25号…2016年打ち上げ。月着陸技術、月サンプル調査。
  • ルナ26号…2018年打ち上げ。月極軌道周回探査衛星?
  • ルナ27号…2019年打ち上げ。極域に着陸し、将来の有人探査への好適地を探す。
  • ルナ28号…詳細不明

なお、このルナ26号は、こちらも名前は出てきていたものの、詳細がなかなか明らかになっていなかった「ルナ・レズルス」であるとされています。ただ、ルナ・レズルスは着陸機で、その実態は、インドの「チャンドラヤーン2」に搭載される予定であった着陸機ともいわれています。
なお、チャンドラヤーン2のロシア製着陸機はキャンセルとなり、この着陸機はインド国産で開発が進められるという情報もあります。このあたりのことから、ロシアでは月探査計画全体が再検討され、今回の見直しに至ったのではないかと推測されます。

第2段階は2020年代(2028〜2030年)で、有人月探査船を月周回させるというもの(着陸はしない)。こちらは宇宙船の性能テストではないかと推測され、月・惑星探査にも適用できる宇宙船をロシアが新規に開発する計画となるのではないかと考えられます。
そして第3段階は先に述べた月面基地構築という段階となります。

今回発表された計画は、以前からのロシアの月探査計画から大胆に踏み込んだ内容となっています。とりわけ、2040年代へも続く有人月面基地構想は、いわゆる「大ロシア」的な雰囲気を漂わせており、近年とりわけその傾向を強めている「大国ロシアの国威発揚」の側面があるのではないかと推測されます。
ロシアは1960年代に有人月探査を実施しようとしたものの、N-1ロケットの失敗によりアメリカに先を越され、さらにその後の財政などの問題から今に至っても月に人を送れていないという状況です。中国が月を明確に目指している中で、有人宇宙大国のロシアとしても何らかの(月を目指した)計画を立てておくことが必要との判断でしょう。
一方で、現実問題としては無人探査機のルナ・グローブの打ち上げがどんどん遅れている(最初は2010年ころの打ち上げが予定されていました)という状況もあり、また、ルナ・レズルスについても状況が不透明です。そのため、無人探査機を整理した上で、これまで開発してきたリソースを最大限に活用する形で探査シリーズを再編しようという状況が伺えます。
ただ、そのように再編したとしても、計画が遅れていることは確かですし、まだそのルナ・グローブの状況にしても明確にみえてきていません。また、計画が何度も変更されることは、探査機の開発などに深刻な影響を及ぼし、場合によってはそのこと自体が探査に最も大きな障害となる可能性があります。これが打ち上げに失敗した「フォボス・グルント」の教訓ではなかったでしょうか(途中で何度も計画変更をしたために探査機の設計に無理が生じ、それが元で探査機が失敗した)。

この「3段階、無人機4機、将来月面基地」というロシアの月探査計画がうまくいくかどうかは、それを支えるロシアの財政的、政治的、技術的な側面がすべてちゃんと機能し、計画を進めていこうという意思がしっかりとみえるということが鍵となると思います。少なくともこれまでは瞑想を続けてきたロシアの月探査に新しい方向性が確立されるかどうか、注意深く見守っていきたいと思います。