NASAの火星探査機マーズ・サイエンス・ラボラトリーは、11月26日午前10時2分(アメリカ東部時間。日本時間では27日午前0時2分)、フロリダ州のケープカナベラル宇宙センターから打ち上げられました。
今回の探査では、愛称「キュリオシティ」と名付けられたローバーを、火星のゲールクレーター内に下ろします。従来とは異なり、ローバーをいわば「クレーン」に吊した形で着陸するという画期的な方法が採用されます。火星への着陸は、2012年8月6日が予定されています。
火星へのローバー打ち上げは、これで3回目となりますが、これまでの探査とこの「キュリオシティ」ではやや違いがあります。今回、ローバーに装備されたロボットアームの先端にはドリルとスコップがつけられており、岩石内部のサンプルを集めた上でふるいにかけ、ローバー内部にある分析装置にかけることになっています。「キュリオシティ」が搭載している科学機器は10にも及んでおり、重さで比べますと、2003年に打ち上げられたマーズ・エクスプロレーション・ローバー(「スピリット」及び「オポチュニティ」)が搭載していた科学機器の15倍にも上ります。これらの機器の中には、火星探査にはじめて投入されるものもあります。例えば、レーザー光を用いて試料を熱して元素分析を遠方から行う装置や、X線回折を利用して鉱物結晶をより詳細に同定する装置などが含まれています。
「キュリオシティ」の重さは、「スピリット」及び「オポチュニティ」の約5倍、長さは2倍にも達します。このため、これまでのようにエアバッグを使った方法で着陸することはできません(エアバッグ自体が壊れてしまいます)。そこで、今回のマーズ・サイエンス・ラボラトリーでは、ロケットを使った逆噴射により減速する降下ステージから吊される形で、火星表面へと降りていく方式をとっています。
また、着陸する際、ゲールクレーターの目標地点への降下に際しては、大気圏内でパラシュート降下に入る前により詳細に軌道を修正するようにしています。このため、これまでの火星探査に比べて、着陸地点の範囲を4分の1くらいの大きさにまで絞り込むことが可能になりました。この技術がなければ、着陸地点に大きな岩などの危険物があっても避けられなくなってしまいます。
このように、大きな探査機を安全に火星表面に着陸させる技術は、将来の有人火星探査に向けた技術の基本となります。さらに、「キュリオシティ」自身も、火星の放射線環境を測定するための装置を搭載しています。これらの技術と測定結果から、将来の火星探査をどのように行えばいいか、重要な情報が得られることになります。
今回の打ち上げ成功に際し、NASAのチャールズ・ボールデン長官は、「世界でもっとも先進的な科学研究室(マーズ・「サイエンス・ラボラトリー」)を火星に送り込むことができて大変うれしい。マーズ・サイエンス・ラボラトリーは、私たちが火星について知りたいことについて重要な情報を送ってくれるだろう。科学を前進させるという目標のほかにも、火星、そして未踏の地への有人探査についても、その可能性について調べていくことになるだろう。」と、将来の有人火星探査計画へのつながりを強調した談話を発表しています。
また、本探査のプロジェクトマネージャーであるJPL(ジェット推進研究所)のピーター・タイジンガー氏は、「ロケットは私たちに大きな飛翔力を与えてくれた。いまや私たちは火星への道筋の途上にいる。探査機とは通信がとれており、熱的も安定しており、動力も正常に得られている。」と述べています。
また、タイジンガー氏は、2週間後に最初の軌道修正を行う予定であると語り、「今後数週間のうちに最初の機器チェックを行い、火星着陸、及び到着後のローバー運用に向けた準備を行う。」としています。
・NASAのプレスリリース (英語)
  http://www.nasa.gov/home/hqnews/2011/nov/HQ_11-397MSL_Launches.html
・マーズ・サイエンス・ラボラトリー (月探査情報ステーション)
  https://moonstation.jp/ja/mars/exploration/MSL/