火星探査機マーズ・サイエンス・ラボラトリー(愛称「キュリオシティ」)が昨年8月6日(日本時間、及びアメリカ東部夏時間)に火星に到達してから、間もなく1年になろうとしています。何かもっとずっと前に火星にたどり着いていたような気もしますが、それは、この1年でキュリオシティがあげてきた様々な素晴らしい成果も関係しているかも知れません。すでに、キュリオシティの当初の目標であった「火星がかつて、生命を育むのにふさわしい環境であったかどうかを解明する」という目標は、イエスの返事と共に達成できたと考えてよいでしょう。そして、キュリオシティの目標は、さらに先、将来の探査を見据えるところに来ています。

この1年間でキュリオシティが地球へと送信してきたデータの総量はなんと190ギガバイト以上にもなります。DVDに入れたとして約40枚分のデータが火星から送られてきたということになるわけです。写真は36700枚の完全な画像と35000枚のサムネイル(縮小)画像、岩石組成を調べるためのレーザーの発射回数は合計75000回以上、2つの岩石についての組成分析を完了、そして1マイル(約1.6キロメートル)以上の距離を走破しています。

この4週間で、キュリオシティは約700メートルの距離を走破し、着陸地点にそびえ立つシャープ山のふもとに向けて走行を始めています。この地点に降り立ったのは、この付近に地層が露出しており、その地層が過去により水の作用で形成された可能性があることを、上空を周回している探査機の撮影した写真のデータから解析チームが突き止めたためです。
これまでの火星ローバーの着陸法とは異なり、自動車ほどもある大きなキュリオシティを着陸させるために、「スカイクレーン」と呼ばれる手法を採用したことは、皆さんの記憶にもまだ新しことでしょう。着陸地点は、目標地点として定めていた長さ20キロの範囲の中心から、わずかに1マイル(1.6キロメートル)離れた場所でした。極めて精密な着陸だったことがわかります。

 キュリオシティのチームは、最初に着陸した場所の近くにある地層に露出した岩石を分析することにしました。キュリオシティが送ってきた写真から、この岩がまさに水の流れでできたことをうかがわせるのに十分な証拠がみつかったためです。解析の結果、これは川の流れのような中で堆積したレキ岩であったことがわかりました。このような岩石がみつかったのは火星でははじめてのことで、火星に十分な水、それもレキ岩を堆積させるような川を作れるほどの水が流れていたことを発見したのです。

着陸してから8ヶ月で、キュリオシティは、火星がかつて、微生物の生育に充分適した環境であることを見出しました。この成果は、岩石にドリルを使った掘削を行い、その試料を分析してわかったことです。キュリオシティの任務は23ヶ月間(1火星年)を予定していますが、その3分の1の段階でここまで成果を挙げていることになります。

キュリオシティはこのような岩石の解析に注目が集まりがちですが、「動く研究室」として、様々な観測、分析を行っています。例えば、キュリオシティに搭載されている計器により、火星までの飛行の間に浴びた放射線量、そして火星での放射線量を測定しており、これらのデータは将来の有人火星飛行にも大いに役立つことでしょう。また、火星にもともとあった大気が上層から徐々に消え、現在ではほとんどなくなっていることも見つけ出しています。この火星の大気の詳細な観測は、かつて日本も探査機「のぞみ」で試みようとしましたが、この11月には、「のぞみ」と同じような目的を持つ火星探査機「メイバン」が打ち上げられ、この謎に真正面から挑むことになります。

キュリオシティのプロジェクト研究者であるカリフォルニア工科大学のジョン・グロツィンガー氏は、かつて火星には微小生命を育むにふさわしい環境があったことに触れた上で、「そのことがわかった、ということは大変喜ばしいことではあるのだが、一方で私たちはさらにより詳細なことを知りたいという欲求に駆られている。シャープ山の麓にある地層には、火星の過去を知るための幅広い時代にわたる地層が露出しており、これを調べることで、生命の可能性についてさらに知ることができるかも知れない。」とさらなる探求に意欲をみせています。

NASAのチャールズ・ボールデン長官は、キュリオシティの着陸1周年に際し、「キュリオシティの見事な着陸成功は、我々を有人火星飛行へと推し進める役割を果たした。今はローバーの轍の痕かも知れないが、いずれはそれが、人間の足跡になっていくだろう。」と、キュリオシティの成果、そしてその未来へのつながりを、短いながらも的確な言葉で述べています。

NASAは、着陸日である8月6日に、NASA TVで着陸を振り返る特別番組を放送するほか、その後には国際宇宙ステーションなどと結んだイベントを行い、その模様は同じくNASA TVで生中継されます。また、グーグル・プラスやツイッターなどのソーシャルメディアを利用して、質問を募るというイベントも予定されています。