NASAはこのほど、来年打ち上げられる予定の火星探査機、マーズ・サイエンス・ラボラトリ(MSL)の打ち上げ時期を、2011年11月25日〜12月18日と決定しました。
この打ち上げ時期は、火星への打ち上げ軌道で最適な時期であるということと、現在周回中の2機の(アメリカの)火星周回機、マーズ・リコネサンス・オービター(MRO)と2001マーズ・オデッセイとの通信がもっとも最適になるように計算した上で決定されました。特に、いちばん通信で問題になる着陸時、及び着陸前の通信が最適になるようになっています。
なお、この日程で打ち上げられる場合、火星への到着は2012年8月6〜20日になる予定です。
通信の問題については、軌道が直行に近いほど、着陸の間に2機の周回機からの通信がうまくいく可能性があります。一方軌道が長くなればなるほど、今度は地球との通信がより長くできるという利点もあります。両者のバランスをとって決められたのが、この打ち上げ期間ということになります。
もちろん、着陸中に地球と直接交信するというのは非常に技術的にも高度で、探査としては挑戦しがいがあることかも知れません。しかし、地球との直接交信の場合、1秒間にたった1ビットしか通信ができないのに対し、衛星を介すれば1秒間8000ビット以上の交信が可能です。
火星への着陸というのは非常に難しいことで、最近では1999年、マーズ・ポーラー・ランダーが着陸に交信を絶って着陸に失敗したということがあります。従って、NASAが着陸時の通信においてより多くの通信帯域が利用できる方法を選択したというのは、探査の成功を優先させるという意味では妥当といえるでしょう。
MSLは、火星の大気に突入する際、従来とは異なるいくつかの技術を試すことになります。2004年の「マーズ・エクスプロレーション・ローバー」のときのようなエアバッグをつかっての着陸は、今回はローバーの重量が大きすぎて不可能だからです。今回は、着地の最終段階で「スカイクレーン」と呼ばれる軌道修正を行うと共に、ロケット逆噴射を使って減速し、車輪を下ろしたまま着陸するという独特の方法を使います。
もちろん、地球と直接交信ができないからといって、データがまったく送られてこないわけではありません。衛星を介することで、地球との通信は保たれます。このような方式は、2008年5月25日(アメリカ現地時間)に着陸した着陸機「フェニックス」でも実証済みです。
マーズ・サイエンス・ラボラトリは、いわば火星上の「動く研究室」として、火星の上を走りながらさまざまな調査を行います。この探査により、火星が生命をはぐくむのにふさわしい環境であるかどうかを調べることになります。探査は1火星年(約687日)にわたって行われる予定です。
なお、マーズ・サイエンス・ラボラトリは、一般公募で名付けられた「キュリオシティ」(好奇心)という愛称がついています。
・NASAジェット推進研究所(JPL)のプレスリリース (英語)
http://www.jpl.nasa.gov/news/news.cfm?release=2010-171
・マーズ・サイエンス・ラボラトリ (月探査情報ステーション)
https://moonstation.jp/ja/mars/exploration/MSL/
・2001マーズ・オデッセイ (月探査情報ステーション)
https://moonstation.jp/ja/mars/2001MO/
・マーズ・リコネサンス・オービター (月探査情報ステーション)
https://moonstation.jp/ja/mars/MRO/