火星に向けて飛行中のNASAの最新探査機、マーズ・サイエンス・ラボラトリー(MSL: 愛称「キュリオシティ」)の着陸が近づいてきました。NASAはこのほど記者会見を行い、着陸に向けた状況などの説明を行いました。
現在のところ、MSLの着陸は、8月5日午後10時31分(アメリカ太平洋夏時間。日本時間では8月6日午後2時31分)に予定されています。
今回の着陸点は、山の麓が予定されています。がけに露頭が露出しているところで、これは科学的な観点から重要として決定されたものですが、一方ではこういう場所は、着陸の際に危険をも伴います。
6月11日の軌道変更によって、この着陸地点についての誤差幅が狭まりました。当初、最終ポイントを中心として、長さ25キロ、幅20キロの範囲の楕円の中に着陸させるというのがプロジェクトチームの目標でした。11日の軌道変更によりこの誤差幅は一気に縮小し、現在は長さ20キロ、幅7キロの楕円範囲内に収まるようになっています。この誤差範囲は、火星の風などによる影響などを考慮したものです。
この修正により、ローバーが着陸してからも探査チームは有利な探査条件を手にします。MSLのプロジェクトマネージャー、ピート・サイジンガー氏は、「(誤差範囲が狭まったことによって)ローバーの移動距離は約半分になる。着陸後、山へ到達するための期間が数ヶ月短くなった。」と、その成果を強調しています。
もちろん、だからといって、山に激突する、といった危険が消えたわけではありません。MSLのチーム幹部であるデイブ・ラベリー氏は、「MSLは長年、安全な着陸に向けて準備してきており、現在は大丈夫と思われる。しかし、火星へ着陸するということは常にリスクを伴うことであり、したがって成功は保証できない。一度着陸したら、我々は慎重に行動することになるだろう。マーズ・エクスプロレーション・ローバーやフェニックスのように、90日という短い寿命ではないので(編集長注: これらのローバーや着陸機は太陽電池動作のため、当初は90日寿命とされた。マーズ・エクスプロレーション・ローバーはすでに8年以上動作しているが、フェニックスは約半年で動作を停止。MSLは熱源として原子力電池を搭載している。)、行動に際して十分な時間がある。」と述べています。
昨年11月の打ち上げ以来、技術者たちは着陸のためのソフトウェアについて、テストと改良を繰り返し重ねてきました。MSLでは、この2週間にインストールされた飛行用ソフトウェアの、さらにアップグレードされたバージョンを使用することになります。さらに、着陸後の移動のためのソフトウェアについては、着陸後1週間をめどに、ローバーに送られることになっています。
すべきことは他にもあります。例えば、MSLは火星の岩石サンプルを採集するためのドリルを装備していますが、このドリルで掘削するときに飛び散る岩の破片などの影響を見積る必要があります。JPLで実施された実験では、ドリルに使われているテフロン(樹脂)が、サンプル内に混入する可能性が示されています。試験は地上にある同型のドリルを使って、着陸後も続けられる予定です。
この問題については、JPLの技術者であり、MSLの科学者チームにも属しているジョン・グローツィンガー氏が、「混入は確かにありうるかも知れないが、ローバーに装備されている科学機器での測定には影響はない。対策もある。」と述べ、「有機物は生命の必須条件だ。隕石が火星に非生物起源の炭素を運んできていることはわかっており、それがいまもって表面近くにあるかどうかがわかっていない。こういったことも含め、生命に関係するであろう物質が存在するかどうかをMSLで探すことになるだろう。」と語っています。
なお、MSLは、着陸後、現在火星を周回している3機の周回機(2001マーズ・オデッセイ、マーズ・リコネサンス・オービター、及びヨーロッパのマーズ・エクスプレス)により、通信を中継してもらう予定です。
・NASAのプレスリリース (英語)
http://www.nasa.gov/home/hqnews/2012/jun/HQ_12-192_Curiosity_Landing_Site.html
・マーズ・サイエンス・ラボラトリー (月探査情報ステーション)
https://moonstation.jp/ja/mars/exploration/MSL/