待ちに待ったニュースが到着しました。NASAは9日、火星探査機マーズ・サイエンス・ラボラトリー(愛称「キュリオシティ」)が、火星の表面の岩にドリルを使った掘削を行い、岩石をはじめて採取することに成功した、と発表しました。この「はじめて」は、もちろんキュリオシティとしてのはじめてもありますが、火星の無人探査機として、岩石にドリルで掘削をして岩石を採集するというのは、実ははじめての偉業なのです。

今回の岩石採取では、ドリルで開けた穴は幅1.6センチ、深さ6.4センチでした。今回採取を行った岩石には、火星のかつての水が豊富であった環境を知るための手がかりがあると考えられます。今回ドリルで掘削した岩石は、いずれローバーの内部にある分析装置(火星岩石その場収集・分析装置: CHIMRA: Collection and Handling for In-Situ Martian Rock Analysis)に送られ、詳細な分析が行われることになります。
今後数日かけて、地上からのコマンド指令によってこの一連の処理が実行されることになります。今回の掘削によって生じた岩石の粉は、掘削装置の中の筒にまず送られます。しばらくは掘削装置内の貯蔵スペースに送られ、そのあとCHIMRAの内部に送られます。また、一部のサンプルは、ローバー内部に残っている可能性がある地球物質の汚染を防ぐために、内部を「洗浄」するために用いられます。もちろん、ローバーは打ち上げ前には非常にきれいな環境に置かれてはおりましたが、「万が一」を考えての措置です。

キュリオシティの掘削装置による穴

サンプル採集装置と簡単に書きましたが、火星の岩がどのようなものか、実際のところ地球の岩のように完全にわかっているわけではありません。固いものもあればやわらかいものもあるかも知れませんし、均質なものもあればいろいろなものが混じり合ったものもあるかも知れません。このように、どんな岩に対しても完璧に動作してくれる岩石採集ドリルを作るというのは、実際には非常に困難な作業であるといえます。
キュリオシティのサンプル採取装置担当者の、 NASAジェット推進研究所(JPL)のルイーズ・ジャンデュラ氏は、「今回、火星の岩石を掘削するために、私たちは8つのドリルを開発し、地球上の20種類以上の岩石に、合計1200以上の穴を開けた」と、その開発の苦労を語っています。

キュリオシティ内部にある分析装置では、サンプルは振動によってふるいにかけられ、150マイクロメートル(1000マイクロメートルが1ミリメートル)以下の直径を持つ粒子のみが分析装置へと送られます。サンプルは分析装置内にある化学・鉱物分析装置(CheMin)、及び火星サンプル分析装置(SAM)に送られ、それぞれにおいて詳細な分析が実施される予定です。

NASAの科学ミッション部門責任者であり、副長官でもあるジョン・グランズフェルド氏は、「これまで製造されたうちもっとも先進的な惑星探査ロボットは、今日ついにフル稼働する科学実験室となった。これは、昨年8月の着陸以来もっとも大きなできごとといえる。そしてアメリカにとってもまた誇らしい日である。」と、その意義を強調しています。

キュリオシティは、サンプルをその場で分析できるということがもっとも特徴的な探査機です。その装置にいよいよはじめてのサンプルが送られることとなります。どのような結果が出て、それが火星の過去の歴史の解明にどのような成果をもたらすのか、大いに期待しましょう。