火星探査機マーズ・サイエンス・ラボラトリー(愛称「キュリオシティ」)に搭載されているロボットアームの準備がほぼ完了しました。2.1メートルもある非常に長いこのロボットアームには、様々な装置が搭載されています。探査チームでは今回、ローバーを動かさず、9月5日に到達した地点で静止して準備作業を行いました。今週末にはローバーの運転を再開し、最初に探査する岩をローバーに搭載されたカメラで撮影する予定です。
今回、このロボットアームに搭載された2つの装置のうち、火星拡大鏡撮像装置(MAHLI)とアルファ粒子・X線スペクトロメーター(APXS)の試験が終了しました。MAHLIは岩石表面の模様を高精度で撮影することができる装置です。APXSは、アルファ粒子と呼ばれる粒子やX線を使って、岩石の中の元素などを測定できる装置です。
このうち、APXSについてはすでに大気中での測定は行なっていますが、今回は実際の測定と同様、硬いものに装置を押し当てて測ることになりました。ただ、今回測定したのは、地球から持ってきた校正用の物体です。X線検出器は雑音が少なくなることから低温の環境の方がより良い測定結果を出せますが、今回、(火星の)昼間の測定であったにも関わらず、かなり良好な結果が得られています。
APXS担当のカナダ・オンタリオ州のグエルフ大学のラルフ・ゲラート氏は、信号は鋭いピーク状になっていることから、地球での測定試験と同じくらい良好な結果が得られたとし、「真昼でも高い(波長)解像度が得られたということは非常に良いニュースだ。今後、サンプルとなる岩を調べる上で、より詳しく調査すべきか迅速な判断を行える。」と喜んでいます。
MAHLIについても、近い測定物体、あるいは遠くの測定物体両方で良好な画像を得ることができました。MAHLI担当のマーリン宇宙科学システムのケン・エゲット氏は、「正直、ローバーの車輪と背景のシャープ山が同じ写真の中に両方くっきりみえたときには、泣きそうなくらい喜んだ。」とかなり正直に語っています。
MAHLIのもう1つの役割は、ロボットアームの動作の援助です。特に、アームの位置をしっかり知るために、このMAHLIのデータは役立ちます。すでにアームに対しては、動くべき位置を教えてはあります。特に、3箇所ある試料投入口へどう動けばいいかは重要なポイントです。MAHLIの情報がロボットアームの動きをより正確につかむための助けになるというわけです。
実際、化学・鉱物分析装置(CheMin)に投入するための投入口を、試料投入前と後で撮影した写真からは、ロボットアームが適切な動きをしていることがわかっています。
また、化学・鉱物分析装置自体の試験も実施されており、試料容器が空の状態でX線を発射する試験は良好に終了しました。
探査マネージャーのNASAジェット推進研究所(JPL)のジェニファー・トロスパー氏は、「そろそろもう少し長距離を走り、化学分析を行える岩に直接アームで触れてもいい頃になってきている。」と述べています。キュリオシティがそのフルパワーを発揮する時がもうそろそろに迫ってきているようです。
・NASAのプレスリリース (英語)
http://www.nasa.gov/home/hqnews/2012/sep/HQ_12-319_Mars_Rover_Update.html
・マーズ・サイエンス・ラボラトリー (月探査情報ステーション)
https://moonstation.jp/ja/mars/exploration/MSL/