マーズ・サイエンス・ラボラトリー(愛称「キュリオシティ」)の活動が始まりました。まずは、近くの岩にレーザーを照射し、その岩の組成を調べることが最初の任務となりました。この岩は「コロネーション」(Coronation, 英語で「即位式」の意味)と名付けられています。
今回、このレーザー光を発射した機器は、化学分析カメラ(ChemCam。本記事の下にある月探査情報ステーションのコーナーを参照してください)という機器です。岩の大きさは握りこぶし程度しかないのですが、ここに10秒間に30回、パルス状にレーザー光を発射します。このレーザー光、照射強度はなんと100万ワットを超えるのですが、この強さのレーザー光をたった10億分の5秒だけ照射しますので、実際に岩に与えるエネルギーはそう大したものではありません。それでも、当たった部分を気化、イオン化させるくらいのエネルギーはあります。
このイオン化したものをカメラ(スペクトロメーター)で捉え、成分を調べようというのが、この化学分析カメラの役割です。離れたところからも物質を同定できるというのがこの装置の自慢です。また、スペクトロメーターは、なんと6144もの異なる波長を捉えることができます。波長帯は紫外線から可視光線、近赤外線までをカバーします。
化学分析カメラの主任科学者であるロスアラモス国立研究所のロジャー・ウィーンズ氏は、「今回の照射で大量のスペクトルデータが得られた。チームメンバーはみな今回の初照射を楽しみにしていたし、そのために一生懸命働いてきた。8年間働いてきたいま、ようやく報われるときが来た。」と語っています。
化学分析カメラは、30回のレーザー照射ごとにスペクトルを取得します。今回は、本格的な分析に先立って、機器の操作に習熟することなどが主な目的ですが、それでもいろいろ重要な成果はあります。科学者たちは、パルスが照射されるごとに、スペクトルの変化が現れるかどうかを調べています。もし変化があるとすれば、レーザー光が表面の「汚れ」を取り除いて、内部の新鮮な物質にたどり着いたことを意味するからです。
フランス地球・天文研究所に所属し、化学分析カメラの副主任科学者を務めるシルベストレ・モーリス氏は、「今回取得されたデータは、地球でのテストの際のデータよりも質がずっとよい。特に雑音が少ない。何千ものターゲットをこれから2年間にわたって調べることで、いろいろな科学的調査が行えるだろう。」と語っています。
今回の化学分析カメラが用いる手法は「レーザー誘起型詳細分析」(laesr−induced breakdown spectroscopy)と呼ばれるものですが、この方法を使うと、原子炉の中や改訂などで、物質のスペクトルを調べることができます。また、環境分析はもちろん、面白いことに、がんの分析などもできます。この手法が火星探査、さらにいえば地球外で用いられたのははじめてとなります。
・JPLの記事 (英語)
  http://www.jpl.nasa.gov/news/news.cfm?release=2012-248
・マーズ・サイエンス・ラボラトリー (月探査情報ステーション)
  https://moonstation.jp/ja/mars/exploration/MSL/