マーズ・サイエンス・ラボラトリー(MSL。愛称「キュリオシティ」)の初掘削の場所が決まりました。平らな岩石の中にある薄い色の岩脈で、そこにかつての水が多かった環境の手がかりがあると期待されます。掘削について問題がないことが技術者の間で確認できれば、数日以内に掘削を開始し、MSLの最初のミッションとして、掘削サンプルの分析が行われることになります。

今回選定された岩は、キュリオシティに搭載されているマストカメラから観測した結果選ばれたものです。カメラがみえる範囲内にある岩脈、小岩、地層、砂岩中の光沢を持つ石、さらには地面の穴などの中から選ばれました。岩石の名前は、おととし(2011年)に亡くなったMSLの副プロジェクトマネージャーの名前にちなみ、「ジョン・クライン」(John Klein)と名付けられました。
掘削する岩がある場所は、「イエローナイフ湾」 (Yellowknife Bay。カナダにある同名の場所にちなむ)と名付けられた、クレーター内部の小さなくぼみの地面を構成している岩です。ここは、キュリオシティが着陸したゲール・クレーターの着陸点と異なる地質学的特徴があることがわかっています。この場所は着陸点から約500メートルほど西にあります。
この地点については、周回衛星が取得したデータから、地面により多くの割れ目があることがわかっており、周囲に比べて夜の冷え方が少ないということがわかってきています。MSLの計画科学者であるNASAジェット推進研究所のジョン・グロツィンガー氏は、「この地点は着陸地点の河床地形とはかなり違っていることがわかってきた。おそらくはかつて豊富な水が存在した場所なのであろう。」と述べています。

今回の掘削では、まず岩石の中から粉状のサンプルを集めます。これに
は掘削ドリルを磨くという目的もあります。その後、本格的に岩石の掘削を行い、サンプルを集め、分析にかけます。この分析によって、サンプル内の鉱物や元素の構成比率などを明らかにします。
また、レーザー照射装置を持ち、離れた岩の岩石組成を知ることができるキュリオシティの「化学分析カメラ」も使われます。すでにこの装置による分析は実施されており、掘削対象の岩脈にカルシウムや硫黄、水素が多く含まれていることがわかりました。
化学分析カメラのチームリーダーであるフランス・ナントの惑星科学・地球物理研究所のニコラ・マンゴー氏は、この岩脈を構成している物質が石膏、あるいはそれに似た岩石(記事中では「bassinite」と書かれています)であると考えられるとし、こういった鉱物は大抵の場合、地球上では岩脈中で水が循環して作られるということを指摘しています。

科学者たちは、岩石組織を調べるために、キュリオシティに搭載されている火星拡大鏡撮像装置(MAHLI)を利用しています。探査予定地点の岩石は砂岩が主で、その粒の大きさは粒こしょうの大きさとほぼ一緒です。ただ、その中にはキラリと光り、形状がつぼみにみたものがあります。インターネット上では「火星の花」(Martian Flower)として評判になっています。
この砂岩の近くにある岩は、砂よりもっと細かいシルトと呼ばれる粒子で構成されている岩石です。このような岩は、着陸点の周りで見つかったレキ岩などとは大きく異なるものです。
このように構成する物質の粒度(粒の大きさ)が異なることは、こういったものが運ばれた時の状況を表しているかも知れないと、MAHLIの主任研究者であるアリゾナ大学惑星科学研究所のアイリーン・イングスト氏は述べています。

「ドリルで掘削し、サンプルを集めるという作業は、これまで火星では行われたことはない(編集長注: マーズ・エクスプロレーション・ローバーでは、掘削というより研磨で岩石表面を磨き、そこに対して観測を行うことはしましたが、掘削して岩石を分析するということはしていません)。ドリルは火星の岩とがっちりと向き合うことになるが、我々の制御範囲を超えてしまうかも知れない。最初ということもあり、私たちが想像もしていなかった事態が起こる可能性も十分に考えられる。」(MSLのプロジェクトマネージャー、JPLのリチャード・クック氏)