ちょうど9年前の今頃(2004年3月)には、NASAの火星ローバー「マーズ・エクスプロレーション・ローバー」のうちの1台、「オポチュニティ」が、火星に水の跡を発見するという偉業を成し遂げました。時代は流れ、9年後の3月に、またもや「偉業の3月」が訪れました。
先日、火星探査機「マーズ・サイエンス・ラボラトリー」(愛称「キュリオシティ」)が採集した岩石の分析が本格的に行われ、その結果、かつての火星の環境は、微生物が存在するのに適したものであったことが判明しました。

先日、キュリオシティは、火星の岩石をドリルを使って採取しました。この岩石(正確にいえば、岩石掘削によって生じた小さな岩石の破片)を分析した結果、岩石の中には硫黄、窒素、水素、酸素、リン、さらには炭素までが含まれていることがわかりました。いうまでもなくこれらの元素は、少なくとも地球上の生命では、生命体を構成する重要な元素であります。

今回、このような大発見を成し遂げた機器は、キュリオシティに搭載されている火星サンプル分析装置(SAM)と、化学・鉱物分析装置(CheMin)の2つです。
各種の分析で、現在キュリオシティが解析を行っている地域、通称「イエローナイフ・ベイ(湾)」は、古代の火星の川の河口地域、あるいは一時的に湖底であったと考えられています。このように水が豊富にあり、化学反応が進みやすい場所は、生命、とりわけ微生物の存在には快適であったといえましょう。
今回サンプル採取を試みた岩は、細かい粒の泥岩であったことが確かめられました。この場所は、現在観測を進めているゲール・クレーターの縁から、水などが流れ落ちてきて、それがたまる場所となっています。そもそもこのように水がたまりやすい場所であること自体が、水が豊富に(少なくともこの場所には)存在したことを示す、何よりの証拠であるといえましょう。

化学・鉱物分析装置(CheMin)の主任科学者であるNASAのエームズ研究センターのデビッド・ブレーク氏は、分析結果について、全体の約20パーセントが粘土鉱物であったと述べています。
粘土鉱物は地球上でも当たり前のようにみられる鉱物ですが、そのでき方には水が大きく絡んでいます。大元の岩石、例えば火山岩などに含まれる鉱物(カンラン石かど)が水によって化学反応を起こし、最終的に粘土鉱物となっていきます。こういうことが起きる場所としては水による堆積活動が起きるような場所であることが最も多く、さらに細かくみると、堆積している岩石の中や、堆積物が(水により)運搬されてくる途中、あるいは堆積物のできる領域(水の活動によって細かく砕かれるような地域)で起きています。粘土鉱物の中に硫化カルシウム(実は、石膏です)が見つかっていることは、この土壌は中性、あるいは弱アルカリ性の環境下で形成されたことを物語っています。

さらに科学者が驚いているのは、今回のサンプルが、深さによって、酸化物、若干酸化されたもの、そしてまったく酸化されていないものというようにくっきりと分かれているということです。このような分化は地球上の微生物もよく利用するものです。
火成の岩石は一般的に赤い、ということはよく知られていますが、掘削により出てきた岩石は灰色でした。これは、このような酸化の影響があるようです。

火星サンプル分析装置(SAM)の主任科学者である、NASAゴダード航空宇宙センターのポール・マハフィ氏は、このようなサンプル内の違いは非常に印象的であり、硫酸塩と硫化物というような物質同士がペアを組む際の化学エネルギーが、微生物の活動に対してエネルギーを供給した可能性があるということです。

今回の発見をさらに確かめるべく、今後はさらに掘削したサンプルの分析を進め、火星サンプル分析装置で、希ガスの分析を行う予定です。
また、科学者たちは、この「イエローナイフ・ベイ」の分析をさらに数週以上かけてじっくりと行い、その後、着陸地点であるゲール・クレーターの中心部のおか「マウンド・シャープ」に向けて移動を開始することにしています。このマウンド・シャープには粘土鉱物や硫化鉱物を含む層が露出していることが上空からの探査で確かめれていて、さらに今回の結果を確かめることが得きると期待されています。

マーズ・サイエンス・ラボラトリー計画の責任者であるカリフォルニア工科大学のジョン・グロツィンガー氏は、「今回の分析で、非常に古く、かつちょっと『変わった』火星の灰色の岩石についての分析結果を得ることができた。その結果、この領域が生命の存在に適していることが判明した。キュリオシティは現在も発見と探査の真っ最中であり、チームとして、これから数ヶ月、あるいは数年にわたって、より驚くべき発見が待ち構えていると期待している。」と述べています。

NASA本部の火星探査プログラムの主席科学者であるマイケル・メイヤー氏は、「今回の探査の基本的な目的は、火星がかつて、生命に適した環境を持っていたかどうかである。今回得られた成果から判断すれば、その答えはイエスだ。」と述べ、今回の発見の重要性を強調しています。