6年以上にわたって観測を続けているアメリカの火星周回探査機「マーズ・リコネサンス・オービター」(MRO)のデータにより、火星のクレーターにかつて地下の湖が存在した証拠があることが明らかになりました。今回の研究論文は、1月20日付の科学雑誌ネイチャー・ジオサイエンス(オンライン版)に掲載されました。

今回の解析は、MROに搭載されているスペクトロメーターのデータによって明らかになりました。この場所はマクローリン・クレーターという場所で、直径は92キロメートル、深さは2.2キロメートルあります。このクレーターは、火星のアラビア平原と呼ばれる場所の西側にある、何百キロメートルにもわたって続く斜面のいちばん端にあり、火星では比較的低い場所にあります。地球でも地下水から湧きだしてできた湖はこのように標高が低い場所に存在することが多く、稼いでも同じことが起きていることは十分に想像ができます。
マクローリン・クレーターの深さからみて、このクレーターにはかつて地下の湖が存在し、その水はやがてクレーターの中へと染み出していったと考えられます。

観測により、クレーターの底の部分には、炭酸塩の岩と粘土鉱物が存在することがわかりました。この両者ともできるためには水の存在が欠かせないことから、クレーターには水が存在していたことは確かです。しかし、このマクローリン・クレーターには、水が流れこんできたような大きな川などの跡が存在しません。さらに、クレーターの壁には水が流れた跡があり、その跡が終わっている高さは、かつてクレーターに水が溜まっていたときの水位ではないかと考えられます。
このようなことから、研究グループでは、かつてこのマクローリン・クレーターの内部に湖があり、その水は地下から供給されたと結論づけました。さらに、クレーターの地下部分にも水が溜まっていたことで、クレーター内部は水が豊富にある環境にあり、場合によっては生命にも適した環境になっていたのではないかと、研究グループでは考えています。

今回の論文の筆頭著者であり、アリゾナ大学惑星科学研究所とロンドン王立自然史博物館の研究員を務めるジョセフ・ミカルスキー氏は、今回の湖底の炭酸塩などの堆積物の生成が、他の場所から運ばれた水ではなく、クレーター内部での水によってできていることを示す良い例だと考えています。

今回の研究では、MROに搭載された小型観測撮像スペクトロメーター(CRISM: Compact Reconnaissance Imaging Spcetrometer for Mars)という機器のデータが使われました。「今回の研究にあたり、MROのチームは、チーム外の科学者であるミカルスキー氏のような研究者に対し高精度の処理データを提供するために、一致団結して努力した」と、CRISMの主任研究者であるジョンズホプキンス大学応用物理学研究所のスコット・マーチー氏は述べています。
「今回のような素晴らしい結果をみると、そのような努力がなぜ重要なのかがわかるだろう。」(マーチー氏)

マーチー氏によると、隕石などの衝突によって地下から掘り起こされた岩石の中には、水による変質作用が認められるものがあるといいます。おそらく火星の歴史の初期にそのような変質が起きたのでしょう。「おそらく、こういう地下に閉じ込められている地下水が、定期的にマクローリン・クレーターのような深いクレーターに湧き出してきたのだろう。地下の生命存在の可能性について、このような地下水が鍵を握っている可能性がある。」(マーチー氏)

MROのプロジェクトマネージャーであるNASAジェット推進研究所のリッチ・ズーレック氏は、「今回の研究をはじめとして、いろいろな研究により、私たちが以前考えていたよりも火星というのはずっと複雑な場所であるということがわかってきた。さらに、いくつかの地域については、かつて生命が存在していた可能性型の地域よりも高いということもわかってきた。」と、今回、及びMROなどのデータを利用した火星研究の意義について語っています。