NASAの火星探査機、マーズ・リコネサンス・オービター(MRO)の観測から、火星の砂丘の移動が、これまで考えられていたより大きなスケールで起きていることがわかりました。その規模はちょうど地球の砂丘のそれに匹敵するとのことです。この研究結果は、9日に発行される科学雑誌ネイチャーの電子版に掲載されます。
なぜこれが予想外かというと、砂丘を動かす力である風が火星と地球では根本的に異なるからです。そもそも火星の大気は地球の100分の1しかありません。また、意外に思われるかも知れませんが、強い風は地球よりもまれで、また地球よりも弱いのが通例だからです。
砂丘についてここ数年の研究者の議論の的は、その古さでした。砂丘が、上で述べたような理由であまり活発に動いたりするものではなく、過去の気候などでできたものが現在も残っていると考える人もいますし、一方では現在の火星の環境下でも動きを続けていると考える研究者もいます。この論争に決着を打つべく、この2年間、MROに搭載される超高精度カメラ、高解像度撮像装置(HiRISE)のデータを使い、研究者が研究を行ってきました。その結果、厚さ60メートルにも達する砂丘全体が、一体になって動いている様子を突き止めたのです。
今回の研究では、移動の前と後の画像を、カリフォルニア工科大学で開発された画像解析ソフトウェアを利用して解析しました。このソフトウェアでは、砂丘の砂紋の位置を比べることができ、その結果、砂紋の方が砂丘よりも早く動いていることがわかったのです。
今回の研究では、赤道近くのニリ盆地(Nili Patera)の砂丘について、2007年と2010年の様子を比較しました。砂紋の動きを相互に比べた結果、砂丘が動いていることがわかったのです。またこの動きから、砂丘全体の体積を知ることができます。
今回の研究場所としてニリ盆地が選ばれたのは、ここに砂丘があるということがわかっていて、その大きさがわかったからです。また研究者によると、このニリ盆地の砂丘は南極、あるいは火星の他の地域にある砂丘ともよく似ているとのことです。
この研究では、さらに、火星の岩石が表面の砂を侵食する速度についても手がかりが得られました。砂の移動の量から、研究者たちは、このニリ盆地の岩石が削られる量は、地球上、南極における砂丘による岩石の削られる量とほぼ同じだということがわかりました。
科学者の計算では、このニリ盆地の砂丘の上の1ヤード(約90センチ)幅を観測していれば、地球の1年(火星の1年は地球の1年の約1.8倍です)の間に2立方ヤード(約1.6立方メートル)の砂がその領域を動いていくとのことです。ちょうど子供が遊ぶ砂場くらいの量になります。
NASA本部の火星探査プログラム庁のダグ・マッキストン氏は、今回の成果について、「これは科学者が火星の変化を全球スケールで調べたことによる素晴らしい成果だ。火星表面の動きをより詳しく調べることで、将来の無人探査、さらには有人探査にも役立つ情報を得ることができる。」と述べています。
今回の研究は、単に火星の砂丘の(それも、ある地域の)話にとどまることなく、火星全体により広い示唆を与えてくれるものとなっています。例えば、火星の表面が非常に侵食されている理由(やその進み具合)、その侵食が起きた時期などについての手がかりを得ることができます。今回の方法を使えば、火星の他の場所でも、砂の動きやその体積などを定量的に知ることができるようになると思われます。火星の風生地形(風によってできる地形)の理解は火星の表面の成り立ちを知る上で重要な要素であることから、この研究がさらに進むことが大いに期待されます。
・NASAのプレスリリース (英語)
  http://www.nasa.gov/home/hqnews/2012/may/HQ_12-152_Mars_Sand_Dunes.html
・マーズ・リコネサンス・オービター (月探査情報ステーション)
  http://moonstation.jp/ja/mars/exploration/MRO/