火星を周回して観測しているNASAのマーズ・リコネサンス・オービター (MRO) の観測で、火星の中緯度地域で、地下の氷が地表に露出しているのが発見されました。隕石が衝突してクレーターを作り、そのために地下の氷が露出したとみられています。
今回、MROの観測チームが発見したのは、みるからに新しい、深さが0.5〜2.5メートルくらいの複数のクレーターでした。同じ場所には前にはクレーターは存在していませんでした。このクレーターのいくつかには、黒っぽい物質の上に、明るい氷の層が露出しているのがみつかっています。最初に発見されてから数週間で、この明るい模様が消滅してしまっていますが、これは、火星の表面に氷が露出したために、蒸発してしまったためとみられています。これら新しいクレーターの1つは、水の氷であると確かめることができるだけはっきりと大きな明るい層をみることができました。
今回の発見は、火星の地下には、極と赤道地域の中間、つまり中緯度地域でも、地下に氷が存在するということを意味しています。これは現在の火星の気候から予想されるよりもっと低い緯度ということです。

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上の図は、火星中緯度地域の、直径6メートルのクレーターを撮影した図です。左の写真は、2008年10月18日に撮影されたもの、右の写真は、それから約3ヶ月後の2009年1月14日のものです。
右の写真では氷がほとんど消えてしまっているのがわかります。なお、それぞれの写真は、縦横幅がほぼ35メートルです。(Photo: NASA/JPL-Caltech/University of Arizona)
この発見を捉えたのは、MROに搭載された高解像度撮像装置(HiRISE)により捉えられました。このカメラの科学者チームの1人であるシェーン・ビーン氏は、「氷は、おそらく数千年前、まだ火星がより湿潤な気候であったことを示す名残であろう。」と述べています。
同じく、MROに搭載されている広範囲カメラ(CTX)の研究者の1人である、マーリン宇宙科学システム(Malin Spae Science System。火星探査についての画像解析を専門に行う会社)のミーガン・ケネディ氏は、「今回の発見で、新しい衝突クレーターが、火星の浅い地下の部分を知るためのプローブとして使えることがわかった。」と述べています。
なお、ビーン氏、ケネディ氏を含め、17人のメンバーが書いたこの発見についての論文が、9月25日付のアメリカの科学雑誌「サイエンス」に掲載されます。
数週間にわたって、CTXはこの領域を含む、総面積がカリフォルニア州より広い範囲の写真を地球に送信しています(カリフォルニア州の面積は、日本列島の面積(38万平方キロ)より若干広い、約40万平方キロあります)。カメラチームが1枚1枚写真を調べ、その中から非常に新しい黒い点を見つけ出し、砂に覆われた台地の中の小さいクレーターを探し出しました。以前の写真を調べることで、このクレーターが新しいものであるということがわかりました。このチームは100以上の新しい衝突クレーターを発見していますが、ほとんどは今回氷がみつかった範囲より南(赤道側)に位置しています。
10月の写真では、その67日前に写真が撮影されていますが、そのときにはまだクレーターはありませんでした。9月12日に撮影された高解像度カメラの写真では、いくつかの小さなクレーターが確認されています。
ビーン氏によると、「何かが飛び出たみたいだ。クレーターの底に、はっきりと明るいものがみえた。どうみても氷だと思った。」とのことです。
探査機搭載のスペクトロメータで組成を決められるほどには、この物質の露出範囲は広くありませんでした。しかし、同じ9月18日に撮影された別の中緯度の写真には、8ヶ月前には存在しなかった別のクレーターが写っており、こちらには明るい物質が広範囲に写っていました。
ジョンズ・ホプキンス大学応用物理学研究所の研究者で、この論文の共著者であるキム・シーロス氏は、「みつけたときには本当にびっくりした。そこで、すぐに緊急の観測を行った。みんな氷だと思っていたが、確認するためにはスペクトルを取得することが必要だからね。」と語っています。
NASAジェット推進研究所(JPL)に所属し、マーズ・リコネサンス・オービターの主任研究者であるリッチ・ズーレック氏は、「この探査では、科学チームによる調整と迅速なレスポンスを重視している。次々に変化する事柄を扱うためにはそのことが重要なのだ。」と述べています。
今回の発見からすると、1976年に火星に着陸したアメリカの探査機、バイキング2号は、火星の地下をはじめて掘り、あと10センチ深く掘れば氷を発見できたものと思われます。
・NASAのニュースリリース (英語)
  http://www.nasa.gov/mission_pages/MRO/news/mro-20090924r.html
・マーズ・リコネサンス・オービター (月探査情報ステーション)
  http://moon.jaxa.jp/ja/mars/exploration/MRO/
・バイキング計画 (月探査情報ステーション)
  http://moon.jaxa.jp/ja/mars/explorers.html#VIKING