残念ながら運用終了となってしまった火星ローバー「オポチュニティ」。その歴史と意義については別の記事をご参照いただくとして、ここではビジュアル中心に、オポチュニティに関する6つの事実について述べていきましょう。

オポチュニティが撮影したエンデバー・クレーター

オポチュニティが撮影したエンデバー・クレーター。クレーターの西の縁から振り返って撮影。ローバーは南を目指して進行している。2014年夏撮影。
(Photo: NASA/JPL-Caltech/Cornell/ASU)

1. オポチュニティは双子である

「スピリット」と「オポチュニティ」の比較

「マーズ・エクスプロレーション・ローバー」の2台のローバー、「スピリット」と「オポチュニティ」の比較。左側がスピリットの成果、右側がオポチュニティの成果。2019年2月4日現在(但しミッション終了時も変わらず)。
Photo: NASA/JPL-Caltech

探査をよく知る方であれば、オポチュニティは2つのローバーのうち1つであることをご存知かと思いますが、ご存じない方も多いかも知れません。
オポチュニティはもう1台のローバー「スピリット」と共に、火星を探査するために打ち上げられました(打ち上げ日は異なります)。両者をまとめたミッション名が「マーズ・エクスプロレーション・ローバー」です。
オポチュニティ・スピリット共に、同一の機構を持ったローバーです。

この両者を比較した数値を並べたのが上の絵です。英語なので日本語で簡単に解説しましょう。なお、左側がスピリット、右側がオポチュニティの成果です。

<スピリットの成果>

  • ミッション期間…約6年
  • 写真撮影枚数…12万4838枚
  • 総走行距離…4.8マイル(約7.7キロメートル)
  • 最大登はん斜度…30度

<オポチュニティの成果>

  • ミッション期間…約14年
  • 写真撮影枚数…21万7594枚
  • 総走行距離…28マイル(約45キロ)
  • 最大登はん斜度…32度

スピリットは2011年5月にミッション終了が宣言されていますが、それよりも早く動けなくなったタイミングをミッション期間としているようです。

いずれにしても、2台のローバーが達成した成果はこの簡単な数字だけをみてもすごいものがあると思います。

2. オポチュニティとスピリットは、火星がかつて液体の水が多い環境であることを実証した

オポチュニティが発見した鉱物粒

オポチュニティが発見した鉱物粒。その色と形から通称「ブルーベリー」と呼ばれるこの鉱物はヘマタイトというものであることが判明。水によってできる鉱物であることから、火星がかつて水に富む環境であることが明らかになった。ファーム・クレーター近くにて2004年4月にオポチュニティが撮影。
(Photo: NASA/JPL-Caltech/Cornell/USGS)

2台のローバーの最大の成果は、なんといってもこれでしょう。

もともとこの2台のローバーは、火星に水があるのか、あればどのくらいの量なのかを調べるということが最大の目的でした。そして、ミッション開始から3ヶ月も経たないうちに、その最大の証拠を発見することになったのです。
それが、この写真にある丸い玉でした。

写真では大きそうにみえますが、直径は数ミリ程度です。この形状から「ブルーベリー」と研究者の間で呼ばれるようになりました。
この「ブルーベリー」ですが、内部を分析したところ(このローバーは写真撮影だけでなく、分析できる装置を持っていた、というところもポイントです)、赤鉄鉱(ヘマタイト)と呼ばれる鉱物が内部に存在することがわかりました。赤鉄鉱は地球上では鉄鉱石の原料としてよく出てくるもので、その成因として、湖のような場所、あるいは鉱泉のような場所で生成されます。その成因を考えると、火星でこのような鉱物がみつかるということは、かつて湖…つまり、液体の水が存在していたことを示すわけです。

スピリットとオポチュニティは、ほかにも水が存在する数多くの証拠を発見しています。
例えば、「堆積岩」と呼ばれる種類の岩を地球以外ではじめて発見しています。堆積岩は、元の岩石が風化してできた砂や岩などが水中で堆積し、それが地中の圧力を受けることでできる岩で、その存在はとりも直さず水の存在を意味します。オポチュニティの観測では、この堆積岩は一時的な湖のような場所で堆積したものではないかと考えられます。

さらにオポチュニティは石膏の岩脈を発見しています。石膏もまた、地球上ではごくありふれた鉱物ですが、これは実は塩分を含んだ水(端的にいえば海水です)が干上がることで生じるものです。石膏の岩脈は、そういった水が岩のすき間に入り込んでいたことを示す証拠といえます。

まだあります。オポチュニティは、エンデバー・クレーター内で中性のpH(ペーハー)を示す粘土鉱物をみつけています。粘土鉱物は、岩石が水の作用を受けて風化され、細かくなってできるものです。しかもそれが酸性でもアルカリ性でもなく中性ということは、いわゆる飲料水のような中性の(実際の飲料水はpH値が6〜8程度。7が中性です)水が存在していたことを示します。

こうして2台のローバーは、火星がかつて水に富む環境であったことをはっきりと示す証拠を多数みつけ出してきたのです。

3. オポチュニティは数多くの記録保持者

オポチュニティによるパノラマ撮影

オポチュニティによるパノラマ撮影。火星到着から2470火星日に撮影(2010年10月31日)。
(Photo: NASA/JPL-Caltech/Cornell)

約15年にわたって活動を続けてきたオポチュニティ。その活動の長さも記録ではありますが、ほかにもいくつかの記録もあります。
火星表面の総走行距離は45.16キロメートル。これは地球外を走行した人工物としては最長の記録です。2014年に達成しました。
ちなみに、当初の予定は90日間活動することでした。オポチュニティはその60倍にもわたって活動を続けたことになります。

4. オポチュニティは「小さいけどできるやつ」だった

「ピリンガー・ポイント」のパノラマ写真

オポチュニティが撮影した、「ピリンガー・ポイント」という場所のパノラマ写真。エンデバー・クレーターの西の縁にある。表面の様子を見やすくするため、色を若干変えて強調する「フォールスカラー処理」が行われているため、実際の色と若干違うことに注意。
(Photo: NASA/JPL-Caltech/Cornell/ASU)

オポチュニティが14年間も活動できたのは、決してミッションが簡単だったからではありません。むしろそのミッションは困難の連続でした。例えば、右前輪がほかの車輪よりも多く回転することがしばしばで、そのため技術者がローバーを後ろ向きに走行させて右前輪の寿命を伸ばすようなことも強いられたりしました。

写真をみればおわかりの通り、火星の表面は決して「走りやすい」なんてものではありません。だいたい舗装されているわけがありません。岩だらけ、砂だらけ、しかもクレーターであれば急傾斜もあります。こんな過酷な環境を、14年間にわたり、オポチュニティは1人(?)で走り続けてきたわけです。

ローバーはイーグル・クレーターというクレーターの中に着陸しました。これを当時は「ホール・イン・ワン」と呼んだりしたものですが、その喜びもつかの間、このクレーターからの脱出が大変でした。
ローバーの車輪はクレーターからはい上がる際にスリップを繰り返し、これに対応するため、ローバーの運用者は特別な運用法(運転法)を編み出す必要に迫られました。そしてこの方法は別のクレーター、エンデュランス・クレーターからの脱出にも使われました。このクレーターから脱出する際、クレーターの縁の壁の傾斜は31度にも達していました。一口に31度といいますが、実際に地球上で31度の坂に出会ったら、それが舗装されていてもものすごい急坂であることはおわかりでしょう。火星の岩と砂だらけの環境での31度の坂への挑戦がいかに大変なものか、ご想像いただけるでしょうか。

2005年4月26日、オポチュニティは車輪を風で堆積した柔らかい砂にとられ、動きが取れなくなります。数週間にわたり「パータゴリー砂丘」と名付けられたこの場所で、オポチュニティは進退窮まる状態となってしまいました。そこで技術者は、探査機を運用するジェット推進研究所(JPL)内に同様の砂を入れた砂箱を作り、そこでテストを繰り返し脱出方法を練りました。最終的にローバーは振動を繰り返すことで脱出に成功します。

オポチュニティを襲った危機の中でも最大のものは砂嵐でしょう。砂嵐が起こると太陽光がさえぎられ、オポチュニティの運用に必要な太陽光が得られなくなってしまいます。2007年に発生した砂嵐の際には、活動を最低限に絞った上でバッテリーの消耗を最小限に抑え、嵐が終わるのを待ちました。しかし2018年の全球規模の砂嵐を乗り切ることは結局はできませんでした。オポチュニティは1ヶ月近くも暗闇の中に閉ざされ、これがエネルギーを奪い、通信途絶の原因となりました。

5. オポチュニティとスピリットは、美しい火星の画像をたくさん送ってきた

オポチュニティが捉えた塵旋風

オポチュニティが捉えた塵旋風。オポチュニティは、「マラソン谷」の南側の縁の一部を構成する「クヌーセン尾根」に向けて登ろうとしているところで、後ろを振り返って撮影している。
(Photo: NASA/JPL-Caltech)

スピリットとオポチュニティの写真が何となく「等身大」の感じがあるのは、おそらく、そのカメラの位置(アイポイント)が人間の目の高さと大きく変わらないということもあるのではないでしょうか。
2台のローバーは、そのカメラで火星の美しい風景をたくさん撮影しました。

2台のローバーが撮影し、地球に送信した写真の総数はなんと34万2000枚にも上ります。さらに、これらは全て撮影後速やかに一般に公開されました。科学者だけでなく、一般の人も、火星表面の写真をすぐに入手することができたのです。インターネット時代の探査であったからとはいえ、これは本当に画期的なことでした。
2台のローバーは、さらに31枚もの360度パノラマ写真を撮影しています。

6. オポチュニティとスピリットの物語は、これからも続く

オポチュニティの轍

オポチュニティが自身のナビゲーション用カメラで撮影した自身の轍。2010年8月4日撮影。
(Photo: NASA/JPL-Caltech)

オポチュニティとスピリット、2台のローバーの成功により、NASAの火星探査計画は劇的な復活を遂げました。
NASAはその前、1998年と1999年に、相次いで2機の火星探査機「マーズ・クライメイト・オービター」と「マーズ・ポーラー・ランダー」を失ってしまいました。2001年に火星に到着した「2001マーズ・オデッセイ」に続き、7年ぶりに火星に送り込まれた2台のローバーは、火星の探査を順調に行うと共に大きな成果を挙げ、アメリカの火星探査計画の進展を後押しします。

ローバーもその後大きな進展を遂げます。2012年に火星に到着した「マーズ・サイエンス・ラボラトリー」(キュリオシティ)は、まさにその英語の名称の通り、「動く火星実験室」として、オポチュニティとスピリットを上回る装備を持ち、火星表面の岩石などをより詳しく探査できるようになりました。
そしてさらにその後輩…オポチュニティとスピリットからいえば「孫」というべきでしょうか、次の大型ローバーが2020年に打ち上げられる予定です。この「マーズ2020」ローバー、そしてキュリオシティも、オポチュニティとスピリットが残した経験や教訓、実績を元に設計・製作されています。この2台のわだちの上を、後輩にあたる2台のローバーが進んでいるといえるでしょう。

そして、オポチュニティとスピリットという2台のローバーのミッションは、何百人という技術者や科学者を育てました。こういった人材は、将来の火星探査計画に置いて重要な役割を果たすことでしょう。いや、火星探査だけでなく、他の月・惑星探査計画でも、その経験をいかんなく発揮し、新しい知識、新しいデータをもたらしてくれるはずです。

2台のローバーの運用は終わりましたが、彼らが残した伝説は、次の時代、次の世代へと引き継がれていきます。