もちろんウイルスは地球上のものですから(宇宙から来たという説は別として)、新型コロナウイルスの問題は宇宙とは関係ありません。しかし、ウイルスは私たちの経済活動全て、宇宙開発も含めて全てに影響します。月・惑星探査も例外ではありません。
NASAは21日に声明を発表し、NASAが現在進めているミッションと新型コロナウイルスへの影響について発表しました。その中で、今年7月に打ち上げ予定の火星探査機「マーズ2020」については「最優先」で進めるとしている一方、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡やオライオン(オリオン)宇宙船、スペース・ローンチ・システム(SLS)については一時組立の中止や組立の減速などの措置を取っています。

NASAはアメリカにおける新型コロナウイルス感染の拡大を受けて、NASAとしてのこの感染拡大に対処する方針を発表しました。拠点の閉鎖などが行われ、担当職員や業者が出勤できず、拠点における作業が非常に限られたものになることを前提としています。その中では、打ち上げ時期など時間に縛られる(延期を行った場合の影響が大きい)ミッションや現在進んでいるミッションに欠かせない打ち上げ、さらには生命やインフラを維持するための作業を最優先とするとのことです。

マーズ2020については、NASAとしては高い優先度を設定するとしています。そのため、打ち上げに向けた各種作業は継続されます。多くの職員や業者はテレワークによって作業に参加しています。作業拠点となっているジェット推進研究所はカリフォルニア州パサデナにありますが、カリフォルニア州自体が非常事態を宣言するなど緊迫した状況にあります。NASAはどのような職員などが出勤して作業をすべきかを上層部で判断し、決定するための作業を続けています。
先日火星ローバーが「忍耐」という意味の「パーサビーランス」(パーシビランス)と命名され、打ち上げ機運が高まっていたところで、非常に厳しい状況になっていますが、それでもNASAが最優先と宣言したことで、7月の打ち上げに向けてまだ希望が持てるといえるでしょう。

火星表面でサンプルを採集するマーズ2020ローバーの想像図

火星表面でサンプルを採集するマーズ2020ローバーの想像図
(Photo: NASA/JPL-Caltech)

ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は来年(2021年)3月打ち上げ予定とのことで、現在組立作業が進んでいるところですが、この組立及び試験作業は一時中止となりました。感染拡大の状況を受けて、この中止期間は来週まで延長される可能性があります。NASAはこの措置は職員の安全を最優先とした決定であり、クリーンルームの環境などは安全であると述べています。

カリフォルニアではNASAの試験機X-59の作業がロッキード・マーチンにより行われていますが、NASAは試験の大半をリモートで実施するとしています。

一方、こちらも今年の打ち上げを目指して作業が進められているアルテミス計画のためのオライオン(オリオン)宇宙船、及びその打ち上げのためのロケット輸送系であるスペース・ローンチ・システム(SLS)ですが、こちらは作業のペースを落とすこととしています。現在両者の組立及び試験は、アメリカ南部(ミシシッピ州およびルイジアナ州)にあるミーシュー組立施設及びステニス宇宙センターで実施されていますが、この2施設は地域の感染拡大に伴って閉鎖されています。アルテミス1で打ち上げられる予定のオライオン宇宙船は、グレン宇宙センターからケネディ宇宙センターに送られ、ここでSLSと結合されることになります。なお、ケネディ宇宙センターでのアルテミス2に向けたオライオン宇宙船の組立作業は継続されます。

NASAはまた、月周回宇宙ステーションであるゲートウェイ計画、及び有人月着陸プロジェクトについて、技術的な分析などがテレワークにより進められており、影響は最小限であるとしています。但し、現場での作業が必要な部分については一時中止となります。

現在地球を周回している国際宇宙ステーションの運用に関する作業は、ジョンソン宇宙センターで引き続き行われています。ただ、感染防止の観点から様々な対策を打って実行しています。
また、4月9日にはこの国際宇宙ステーションにNASAのクリス・キャシディ宇宙飛行士と2名のロシア人宇宙飛行士が、カザフスタン共和国のバイコヌール宇宙基地からソユーズ宇宙船で国際宇宙ステーションへ向かう予定ですが、この関連の作業も続行中です。もちろんこの3名の宇宙飛行士に対して、新型コロナウイルスだけではなく、風邪やインフルエンザなど他の病気を移さないよう、また彼らがかからないように、NASAや関連企業の関係者が細心の注意を払っています。
また、宇宙に向かう全ての宇宙飛行士は、打ち上げ2週間前から検疫に入ります。これは病気感染がないかどうかをしっかりと観察するためで、この期間のことを「健康安定化」(health stabilization)と呼び、国際宇宙ステーションに病気を持ち込まないようにするための重要なプロセスとなります。

NASAはハッブル宇宙望遠鏡をはじめとして人工衛星や探査機にとって不可欠な運用は継続しています。また、国立海洋大気局(NOAA)や国防省などの人工衛星の運用支援も継続しています。

NASAでは、4段階の危機対応段階を設けています。「ステージ4」が最高の段階で、ここに至ると施設閉鎖などの措置が取られます。現時点で概ねセンターや施設の対応段階は、その一歩手前の「ステージ3」となっています。この段階ではどうしても必要な職員を除き、ほぼすべての職員にテレワークが義務付けられます。
現在(3月25日時点)でステージ4に達しているNASA関連のセンター及び施設は、エームズ宇宙センター、ステニス宇宙センター、ミーシュー組立施設の3つです。
アメリカ国内の感染拡大状況によっては、今後このレベルが拡大していく可能性もあります。

NASAの細心の対応状況については、NASAウェブサイトで随時公開されていくようですので、注意してみていくことが必要でしょう。