インドが先日、火星探査計画を正式承認し、2013年秋に打ち上げる予定であるということをこのブログでもお伝えしました。このほど、インド宇宙機関(ISRO)からもこの火星探査計画についての文書が発表されました。
今回の発表は、ISROのラダクリシュナン議長がワランガルの国立技術研究所で行った第10回の会議挨拶の中に含まれています。この会議冒頭の挨拶は全文がISROウェブサイトに掲載されていますが(URLは下記参照)、この中から、火星探査に関する部分だけを取り出してみます(下の挨拶では、3〜4ページ目にあたります)。

次に、火星周回探査計画について紹介させて下さい。これは、先日我が国の首相が、赤い城(インドにあるムガール帝国時代の要塞)において、第66回の独立記念日に合わせて発表したものです。この計画は、わが国初の火星への探査計画となるもので、2014年9月をめどに、火星の周囲、近火点500キロ、遠火点80000キロの楕円軌道に衛星を投入することを目指します。
火星探査衛星は、地球周回軌道上に、インドのPSLV-XLロケットを用いて打ち上げられます。打ち上げの時期は2013年10〜11月です。衛星は、自身の推進システムを用いて火星に到着するまで約300日を要します。この2013年秋は、火星と地球が接近し、火星に探査機を打ち上げる直近の好機となります。
今回の非常に挑戦的な探査の第一の目的は、まずインドの宇宙技術が火星への到達を行える水準にあることを確認することです。また、探査機が周回軌道にある間には、いくつかの科学的な観測も実施する予定です。搭載されるのはインドで開発された科学機器です。
火星への打ち上げ好機は約26ヶ月毎に巡ってきます。これは、地球と火星とが互いに近づく周期です。従って、この好機を捕まえることこそが探査の第一条件となるのです。火星探査を成功させるためには、技術的に到達しなければならない数多くの事項が存在します。

  • 地球周囲の放射線帯であるバン・アレン帯を無事通過するための、放射線防御技術の開発
  • 火星と地球との距離は、近いときで約5500万キロ、遠いときには4億キロもあるため、場合によっては片道で電波が20分ほどの遅延を生じる。そのため、火星周回機には高度な自律機能を搭載する必要がある。月探査機のチャンドラヤーン1では、月までは「わずか」40万キロであったことを考えると、非常に大きな挑戦となる。
  • 火星周回軌道への投入が、本探査の成否を決める極めて重大なイベントとなる。

本ミッションが成功すれば、新たな惑星探査への時代への画期的な挑戦への道を切り拓くことでしょう。

以上が、議長挨拶における火星探査に言及した部分です。まだ探査に関しては名前(愛称)どころか計画名すらついていない、あるいは公表されていないというところですが、ISRO議長が来年秋の打ち上げを言明したことで、インドが確実に火星探査を実施することが間違いないことはわかりました。
また、技術開発について多くのなすべきことがあるという点は、2008年に打ち上げられた月探査機チャンドラヤーン1が、ミッション途中で故障のため探査を終了したという事態を踏まえ、今回は念入りな技術開発を行って臨むという意思の現れともいえます。
今後、もっとも気になる計画名なども含め、計画が順次公開されていくと思います。月探査情報ステーションでも本件は新しい情報が入り次第随時お伝えしていきます。