先日火星周回軌道に探査機を投入することに成功したインドについて、中国側からの反応が人民網日本語版にまとめられています。

記事から見える中国(というか、この記事に寄稿した専門家)の反応をまとめますと、次のような点に集約されるかと思います。

  • インドが火星探査に歩を進めたのは、あくまで政治的な目的(宇宙探査でも中国を追い抜いたことを世界に知らせようとする、技術的というよりは政治的な目的)であり、そのことを大きく論じる必要はない。
  • 中国は「近いところから遠いところへ」「着実にステップを踏む探査」の原則に従って、まず月探査を実施、そしてそれも周回から着陸、サンプルリターンという形で進める予定である。
  • 中国の深宇宙探査能力は十分なものがある。すでに深宇宙探査用の電波受信施設も国内に整備しており、「嫦娥2号」による深宇宙探査も順調に進んでいる。

ただ、これらの内容は、逆に中国内部での危機感をある程度反映しているような印象を、私(編集長)としては持っています。
実際中国は「近くから遠く」といっていますが、すでに2011年には小型ながらそれなりの能力を持つ火星探査機「蛍火1号」を打ち上げようとしていました。しかし、母船となるロシアのロケットの失敗でその目標は果たせませんでした。
また、月探査についても、2008年の「チャンドラヤーン1」に続く、チャンドラヤーン2の計画も進んでおり、この点でも実際のところはインドも「近くから遠く」という探査の流れに即しています。決して火星にいきなり挑んだわけではないということです。
また、このブログで特に中国関係の記事をお読みになっている方はお分かりかと思いますが、中国はこれまでも火星探査にはかなり興味を持っていて、いつでも可能であるというような内容を専門家が一般向けの講演などで解説しています。

このような状況で「観測機器が『たった』5つしかない」とか「中国はインドよりもっと大きなロケットを持っている」といった点にこだわった記事内容になっているのは、それだけインドを脅威としてみている現れではないかと私(編集長)は考えています。
そしてどの点が脅威かとすれば、もちろん、火星周回軌道への打ち上げ能力といった宇宙技術一般もありますが、計画開始からたった2年で探査機打ち上げにまで至ってしまったインドの「足回りの早さ」ではないかと私は考えています。
中国がそれに対抗して探査機を進めようとしても、おそらくは難しかったでしょう。
中国が月探査である意味「ガチガチに固まっている」のに対し、インドは柔軟な探査を計画し、すぐに実行できる。その足回りのよさこそが中国にとっては脅威なのかと思われます。

今後中国も火星探査に歩を向けてくるのか、あるいは現状の月探査計画を守り通すのか、さらには両方をやろうとするとどうしても問題になる予算の問題にどう立ち向かうのか、このあたり、非常に興味深いところです。