3月14日にカザフスタンのバイコヌール宇宙基地から打ち上げられ、「無事」火星への行程に就いたエクソマーズですが、実はこの打ち上げの最終時点で打ち上げロケットの上段が分解するというアクシデントがあり、まさに「危機一髪」の火星行き(ロケット分離)であったことがわかりました。アメリカのポピュラーメカニクス誌が報じています。

希ガス探査周回機から切り離されるスキアパレッリ着陸機(想像図)

希ガス探査周回機から切り離されるスキアパレッリ着陸機(想像図) (© ESA/ATG medialab)

今回のエクソマーズの打ち上げでは、ロシアのロケット「プロトンM」が使用されました。プロトンM自体は3段式のロケットですが、プロトンMの打ち上げでは、さらにその上端に「ブリーズM」というモジュールが搭載されることがあります。このブリーズMは、いってみれば「最上段小型ロケット」と呼ぶべきもので、ロケットの打ち上げ後、さらに正確な軌道に投入するために使われるロケットです。今回のエクソマーズの打ち上げでもこのブリーズMが使用されました。
エクソマーズの打ち上げでは、ブリーズMが火星への軌道へ探査機を投入させるために最終的な燃焼を行う形になっていました。

ところが、ポピュラーメカニクス誌の記事によると、このブリーズMとエクソマーズが分離された直後、ブラジルの観測所からのエクソマーズの観測画像で、探査機の周りを取り巻く6つの物体が確認できたというのです。
ロケット、あるいはブリーズMもそうですが、一般的にロケットから衛星が切り離されれば、衛星と残ったロケットの2つしか残骸は存在しないはずで、6つもの物体が見えているというのはありえないことです。また、ブリーズMは衛星分離後、投入された衛星との衝突などを避けるために、「墓場軌道」と呼ばれる、より高い軌道へ遷移するために自身の燃料を噴射して軌道を変えるということになっています。ですから、こんなにたくさんの物体が探査機の周りを取り巻いていたというのは、明らかに「何か」が起きたことを意味します。

ポピュラーメカニクス誌がロシアの関係者の話として伝えるところによりますと、ブリーズMの衝突回避のための噴射は約12秒行われ、探査機と十分な距離が保たれた後、今度は1分半にわたってロケットを噴射、これでブリーズMの燃料をすべて使い切る形になるそうです。この2回めの噴射が終わったあと、中に残っている高圧のガスを外に出す(後々爆発して大量の宇宙でブリを飛散させることがないように)ために弁が開くようになっているそうです。
6個の物体が発見されたというのは、その第2回のロケット噴射の際に何らかの事態が発生したのではないかと思われます。

実際のところ、実はロシアはこの第2回めのロケット燃焼のときの軌道を追跡できるネットワークを持っていなかったので、何が起きたのかは実はわかりません。また、ロシア科学アカデミーでは事前にオーストラリアとボリビアの望遠鏡を追跡のために使用する協定を結んでいたようですが、両者が何かを捉えたということもないようです。

また、ブリーズMはこれまでにもいろいろと失敗を起こしています。直近では昨年12月13日、ロシアの極秘軍事衛星の打ち上げの際にも、その後1月16日にブリーズMが爆発してしまいました。これは、破片(宇宙でブリ)の追跡から、ブリーズMに搭載されていた燃料用高圧タンクの1つが落下してしまった可能性が指摘されています。本来であれば、先ほど述べたように弁が開いて中の燃料をすべて放出させるはずなのですが、何らかの理由でその機構が働かず、高圧の燃料が残されたまま、太陽光に照らされて高温となり、爆発してしまったと考えられています。

今回非常に心配されるのは、この直近のブリーズMの爆発事故とは異なり、バラバラになった時点でまだ探査機(エクソマーズ)がすぐそばにいたということです。このため、爆発があったとすれば、エクソマーズに何らかのダメージが発生しているおそれがあります。
現時点では探査機のダメージは確認されていませんが、今後搭載機器のチェックなどが行われていく時点で何らかの問題点が発見される可能性も捨て切れません。私(編集長)も大丈夫だとは思っていますが、一抹の不安を抱かせる情報であることは確かです。

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