NASAが、アポロ11号と17号の着陸点を、いわば「聖地」として永久保存するためのガイドライン作成に入ったことがわかりました。space.comのレオナルド・デビッド氏のコラムで詳細が記されています。
このガイドラインでは、着陸点周辺を立ち入り禁止区域とし、その周辺を立ち入り制限地域、また上空を飛行禁止区域として設定するという内容になっているようです。上空を飛行禁止区域にするのは、ロケットの排煙などが着陸点周辺、特にアポロの遺構を汚染するからだということです。
NASAジョンソン宇宙センターの月面商業利用担当部長のロバート・ケルソ氏は、将来的に人類が月に再び降り立つ日が来る可能性を見据えた上で、アメリカ政府の遺構を守るためにどのようなことができるかについて真剣に考えなければいけないと言及しています。その上で、同様のガイドラインについて、歴史的、あるいは科学的に重要な価値があるとみなされる月面の他の数十地点(編集長注=原文ではmore than three dozens、直訳すれば36箇所以上となります)について、同様のガイドラインを定める方針とのことです。
7月20日(アポロ11号の着陸微)に公開されたこのレポートは、題名が「N宇宙旅行の構成要素についてのNASAの提言: 歴史的・科学的に重要なアメリカ政府の月面遺構をどのように守り、保存していくか」(原題: NASA’s Recommendations to Space-Faring Entities: How to Protect and Preserve the Historic and Scientific Value of U.S. Government Lunar Artifacts)となっています。
今回このような勧告が出されたのには、急速に進む月面への民間ベースでのアプローチがあります。例えば、グーグル・ルナー・Xプライズという月面探査レースでは、月面にローバーを着陸させた民間チームに2000万ドル(日本円で約15億円)を提供するほか、アポロ着陸船の残骸などの月面遺構を撮影できたチームには、追加して400万ドル(約3億円)の賞金が提供されます。
ここで出てくる根本的な疑問として、「将来、民間ベースの小型ローバーなどがアポロ着陸船に近づいていった場合、月面の遺構を科学的に、また歴史的にも調査していくために、どのようにすれば守ることができるのか」というものです。
今回のNASAの勧告では、月面にあるアメリカ政府の遺構、具体的には、

  • アポロ計画における着陸船、ローバーなどの移動用の乗り物
  • 無人探査船の着陸地点(すなわち、サーベイヤー探査機の着陸点)、及び衝突地点。これには例えば、レインジャー探査機の衝突地点や、LCROSSによる着陸(衝突)地点も含まれる。
  • アメリカ政府(NASA)が実施した月面における実験の残骸。道具、装置、月面歩行用装置など
  • アメリカによる月面到達を示す遺構。具体的には月面の足跡やローバーの轍など

などについての保護が規定されています。
この点について、宇宙開発における過去の遺産の保護などについて研究を行っているニューメキシコ州立大学ラスクルーセス校のベス・オリーリー氏は、この月面の遺構を守るという過程について、より考古学的なアプローチが必要であろうと述べています。
現在月を周回しているルナー・リコネサンス・オービターが、月面のアポロ着陸点や旧ソ連のルノホート・ローバーなどの撮影に成功したことが示すように、こういう探査機は、「月面考古学」にとって、歴史的な遺構が存在する地点がどのようになっているのかを知るための材料ともなっています。
オリーリー氏は、NASAのガイドラインは、一連のアポロ着陸点について、立ち入り禁止区域と立ち入り制限地域(緩衝地帯)を設置しようというものであり、その中でもアポロ11号と17号は、特に歴史的、文化的な価値が高いものであるとのことです。従って、この2つのミッションに関わる地点についてはどのような場所であっても立ち入りを禁じると共に、将来的にローバーなどの移動物体が近づく際には、「遺構境界線」を設け、それ以上中へ入れないというゾーンを設けることになるとのことです。
今回のNASAの研究では、ローバーだけでなく、いわゆる「ホッパー」と呼ばれるような、月面を低高度で飛び回りながら表面移動を繰り返す形態の表面移動装置についても、表面への排煙の影響を避ける意味からガイドラインを設けています。
基本的に、このNASAの勧告では、月面のアポロ着陸点を、そのままの状態で、汚染されることなく保存すべきとしています。
オリーリー氏は、今回のガイドラインについて、「月面の歴史的な保護への偉大なる一歩である」と評しています。また、重要なこととして、「将来のミッションによってそれまでの月面着陸点などが、歴史的、科学的な価値を失われるような形で変更されてしまうようなことが起こりうる。」とのべ、現在でも、例えばアポロ計画により設置されたレーザー反射系などが活動を続けていることから、こういった地点は現在でも科学的に重要なデータを供給し続けていることに触れています。その意味で、同氏は「もっと早くこういった保護策を決めるべきであった。」と述べています。
・space.comの記事 (英語)
  http://www.space.com/13346-nasa-guidelines-protect-apollo-moon-landing-sites.html
・グーグル・ルナー・Xプライズ (月探査情報ステーション)
  https://moonstation.jp/ja/topics/company/GLXP.html
・サーベイヤー (月探査情報ステーション)
  https://moonstation.jp/ja/history/surveyor.html
・レインジャー (月探査情報ステーション)
  https://moonstation.jp/ja/history/ranger.html
・ルナー・リコネサンス・オービター/エルクロス (月探査情報ステーション)
  https://moonstation.jp/ja/history/LRO/
・月面を動くために、ローバー以外の手段はありますか? (月探査情報ステーション・Q&A)
  https://moonstation.jp/ja/qanda/F617