不思議なことに、昨日の記事で「最近は中国の月探査計画(嫦娥計画)の情報が伝わってこない」と述べたところ、その翌日に情報が届くという事態がありました。ひょっとすると中国の当局者もこのブログを愛用しているのでしょうかね?
中国は、次の着陸機となる「嫦娥4号」において、月の裏側への着陸を目指す方針です。新華社が伝えています。
ここでもう一度、嫦娥のおさらいをしておきましょう。嫦娥計画は、中国の(いまのところは)無人の月探査計画であり、第1段階は周回、第2段階は着陸及びローバー、第3段階はサンプルリターンのそれぞれの探査を行う計画です。各段階それぞれ2機ずつの探査機が打ち上げられることになっており(1機はバックアップの機体で、もし最初の機体が無事打ち上がれば、予備機も打ち上げという形です)、嫦娥1・2号が周回機、嫦娥3・4号が着陸+ローバー探査機、嫦娥5・6号がサンプルリターン機となります。
嫦娥1号は2007年、2号は2010年に打ち上げられ、嫦娥2号は現在深宇宙で活動中です。嫦娥3号は2013年に打ち上げられ、月着陸を果たしました。その次となる着陸機(おそらくはローバーも搭載していきます)が、嫦娥4号というわけです。
Zou氏によれば、当初嫦娥4号の打ち上げは2015年ころと予定されていましたが、現在に至るも打ち上げに関する情報が伝わってきておらず、おそらく打ち上げは延期されているものと想われます。また、開発状況もこれまではっきりしてきませんでした。
このほど、中国科学院の月探査部門に属する科学者である鄒永廖氏は、火曜日に開かれた「深宇宙探査フォーラム」において発表を行い、その中で、嫦娥4号を月の裏側に着陸させる予定だと述べました。時期については2020年より前ということで決定してはいないようです。なお、中国の科学技術関係のソーシャルネットワークGuokrで公表されている資料(おそらくはその席で発表された内容かと思います)によれば、打ち上げ時期は2018~2019年になるとみられます。これは、サンプルリターン機である嫦娥5号の打ち上げが予定される2017年よりあとですが、資料によれば名前については調整されるとのことです。
もしこの軟着陸が実現すれば、月の裏側に軟着陸する世界初の探査機ということになります。実際、月の裏側に衝突した探査機はありますが、軟着陸した探査機は未だかつてありません。大変な挑戦です。
鄒氏はまた、過去1年以上にわたり、政府の指示により嫦娥4号のミッション内容に検討を重ねてきていると述べています。また、中国の国家国防科技工業局が、打ち上げ時期については2020年以前にすることをことしはじめに公表しているとのことです。
月の裏側はもちろんまだ着陸機が降りたことがないということもあり、技術的、科学的な意味で多くの成果が期待できます。また、地球からの電波などが月で遮られるため、月の裏側は「電磁波が静か」で、この点は特に電波天文学の上では有利です。とりわけ、これまであまり観測されていない低周波数領域(長波長)のデータが得られれば、これまでの電波天文学では得られなかった新たな知見が得られることが期待されると、新華社の英文記事では述べています。
ただ、裏側に着陸するということは、当然のことながら通信に大きな困難が生じることも同時に意味します。ご承知の通り、月の裏側は地球に対し決して姿を見せません。このことは、月の裏側から通信しようと思えば、何らかの中継衛星が必要になることを意味します。
そのためかと思われますが、Guokrで公表された発表資料では、「リレー衛星」という名前がみられます。リレー衛星は、月の裏側にある衛星からの電波を中継し、地球に向けて送信する(そしてその逆も行う)衛星で、日本の月探査衛星「かぐや」でも、月の重力場をより詳しく調査する目的で搭載され、活躍しました。おそらく嫦娥4号も同じ手法をとるようです。
発表資料によると、嫦娥4号は嫦娥3号と似たような着陸機とローバーによる構成になる模様ですが、それぞれ機器やシステムが刷新されるようです。すでに機器類の開発は終了しており、最終試験(資料にはAITとあり、これが何の略号なのか不明ですが、All Integration Test = 全機器総合試験と考えるとつじつまが合います)を待つ段階とのことです。
打ち上げは長征3号Bロケットにより、四川省の西昌衛星発射センターから打ち上げられます。これまでの嫦娥シリーズは全てここから打ち上げでしたが、嫦娥5号、6号については、海南島にある文昌衛星発射センターからの打ち上げになります。
今回搭載されるリレー衛星については、「かぐや」のときのような小さなものではなく、独立した太陽電池パネルがついたもののようで(資料のイラストにはそのようになっています)、しかも嫦娥4号の探査終了後は深宇宙探査を実施する予定で、地球-月間の重力均衡点であるラグランジュ点(L2)の回りを回るハロー軌道に投入されるとのことです。このリレー衛星の寿命は3年間が想定されています。
発表資料では、このリレー衛星だけが独自のロケットで打ち上げられるような記述もみえますが(嫦娥4号とは別に打ち上げられる)、現時点では確認がとれていません。
搭載機器については具体的な名前などは明らかになっていませんが、おそらく嫦娥3号と同様の機器(もちろん性能向上は図られると思われます)が搭載されるでしょう。ただ、月面の電波環境にも触れていたことから、嫦娥3号が月面光学望遠鏡の試験装置を搭載していったように、嫦娥4号は月面電波望遠鏡の試験装置を搭載していく可能性があります。
また新華社英語版の記事では、嫦娥5号についても少し触れられていて、それによると月探査の地上システム担当者の言として、嫦娥5号では自動サンプリング、月面からの上昇、月面から40万キロ離れた場所での無人ドッキングなど革新的な技術を使用することになるとのことでした。ただ、この「40万キロ」という数字は地球-月間の距離が38万キロであることを考えるとやや不自然な感じはあります。
いずれにしても、嫦娥4号の姿がみえてきたことで、今後はこれら(4、5、6号の)が計画通り実行されるかどうかに注目が移ります。月探査情報ステーションでは今後も嫦娥についての情報を随時お伝えしていく予定です。
- 新華社の記事
https://moonstation.jp/ja/history/Chang_e/