おととい本ブログでもお伝えしましたが、月着陸を目指す技術競争「グーグル・ルナーXプライズ」(GLXP)に参加している日本のチーム「ハクト」が、このGXLPの達成期限である3月末までの打ち上げが難しくなったという報道がインド国内、さらには国内でも出てきました。これを受けてハクトの袴田武史代表は11日都内で記者会見し、この事実を認めた上で、3月末までのミッション達成が困難になったことを表明しました。しかし袴田代表は同時に、月着陸を諦めたわけではなく、様々な手段を通してミッション実現の可能性を引き続き探っていくと表明しました。
GXLPは、月に探査機を軟着陸させた上でローバーを500メートル以上走行させ、月面から高精度の静止画・動画を最初に送信できたチームに、賞金2000万ドル(約23億円)を授与するという技術開発競争です。名前の通りグーグルがスポンサーになっています。
当初は30以上ものチームが名乗りを上げていましたが、現時点で残っているチームは5つとなっており、そのうちの1つが日本のチーム「ハクト」(HAKUTO)です。ハクトのローバーは「ソラト」と命名されています。
またこのレースには締切が設定されています。達成期限は過去何回も延長されてきましたが、現在は2018年3月末(つまり、あと2ヶ月半強)となっています。
今回の問題は、ハクトのローバー「ソラト」の打ち上げを、インドのチーム「チーム・インダス」が打ち上げるロケットに相乗りさせる形で行うというところから始まっています。
このチーム・インダス、ロケット(インドのPSLVロケット)を打ち上げロケットとして調達する予定でしたが、今年に入ってから実はそのための資金を確保できておらず、打ち上げ契約が行えていないということがわかりました。
PSLVはそもそもチーム・インダスが打ち上げるために契約されており、ハクトはそれに「相乗り」していく形です。従って、チーム・インダスが契約を履行できなければ、相乗りしていくハクトも月面に到着することができません。
この問題が公になったのは今年になってから、この数日のことで、大変急だったことがわかります。
この問題を受けて、11日、ハクトの袴田武史代表が都内で記者会見しました。
袴田氏は、上記の、PSLVとチーム・インダス間の契約に関する問題を認め(詳細については守秘義務というがあるためお話しできないとのことでした)、GLXPの達成期限である3月までに「ソラト」を月面に到達させることが困難であると表明しました。
その上で、決してGXLPから離脱するわけではないと強調した上で、「これまでHAKUTOのチャレンジに共感、ご支援いただている皆様の想いを無駄にしないために、Google Lunar XPRIZEそして民間による月面探査という挑戦を続けていきます。」と表明しています。
ただそうはいっても、実現するためには何らかの方策を考える必要があります。
その1つが、GLXPの期限延期です。現時点で参加している5つのチームすべてが、まだロケットの打ち上げについての日時を発表していません。つまり、どのチームもまだめどが立っていないという状況なのです。従って、このままではレースは誰も達成できず終わってしまうことも考えられます。
記者会見では、袴田代表はGXLPの期限延長を先方に依頼していることを明らかにし、これを含めた「あらゆる方策を検討している」ということを述べています。
仮にGXLPの期限が延長されれば、資金調達のための時間確保も可能となります。また、チーム・インダスの支援などを行う際にも多少の時間的な猶予が与えられるでしょう。
また、チーム・インダスについてはいろいろな問題が指摘されていますが、袴田代表は「チーム・インダスとのパートナーシップは今後も続けていきたい」と言明しました。
袴田代表自身も今回の問題について把握したのはつい最近だったようで、記者会見でいつ問題を把握したのかを尋ねられると「おとといの昼過ぎ、報道で知った」と述べていました。このタイミングは編集長(寺薗)が問題を把握したのとほとんど変わりありません。
また、仮にGXLPが期限を延長しなかった場合についても、「その場合も月への飛行を目指す」と答えています。
いずれにせよ、様々な方法で月に向かうことを検討する、ということになります。
今回の問題、先方のチームの財政面での問題などを把握できていなかった点で、ハクト側にも甘さがあったことは否定できないでしょう。また、そもそも相乗りではなく、自力でロケットを調達すべきであったという意見もあると思います。
しかし、ハクト側としてもチーム・インダスと交流を重ねた上で今回の結論に至っているわけで、それ以上彼らを責めるのはむしろ酷であると私は考えます。相乗りという決断にしても、当初参加していたチーム「アストロボティック」のキャンセルにより、大慌てで打ち上げロケットを探さなければならないという状況に陥り(2016年末までにロケットを決定していないチームは自動的にGXLPから脱落させると、主催者から説明されていました)、当時打ち上げロケットを明確にしていたチーム・インダスと組むという判断は妥当なものであったと考えられます。
もちろん、ロケットを自前で調達するという面もあったと思いますが、今度はそのための資金調達の問題が生じます。それができていれば…ということもあるでしょうが、今のハクトではそれが限界であるともいえるでしょう。その限界の中でできる限りのことをしてきたうえでの今回の結論であると、編集長は考えています。
袴田代表は、記者会見後に発表されたハクトの声明の中で、「どんな困難があっても歩みを止めずにいれば、解決案は出てきます。我々は引き続き挑戦し続けます。」と力強く語っています。
編集長が「はやぶさ」のミッションに関わっていたとき、あるいはH-IIAロケット打ち上げ失敗のさなかにいたときにも、まさに同じことがありました。どのような状況に置かれても、歩みを止めず、解決案を探っていけば必ず出口はある…。そのことは、私が身をもって知っています。
そしてそのような状況において、多くの人からの励ましの言葉がいちばん力になった、ということを私も体験しています。
頑張ろうという人を後押しすること、それがいま、私たちができる、ハクトへの最大の支援ではないでしょうか。
月探査情報ステーションでも引き続きハクトの状況を随時お伝えすると共に、彼らの挑戦を支援していきたいと思います。
皆様もぜひご支援いただきますよう、編集長よりお願い申し上げます。
【さいごに】 本記事のまとめにあたっては、大貫剛さんの記者会見の様子のツイートを参考にいたしました。大貫さんにこの場を借りて感謝申し上げます。