このブログでもたびたびお伝えしております、グーグル・ルナーXプライズに参加する日本のチーム「HAKUTO」(ハクト)ですが、20日、打ち上げロケットを変更し、新たにインドのチームとの相乗りの形で、インドのロケットにて来年12月に打ち上げると発表しました。

月面ローバー「ハクト」の最終デザイン

2017年打ち上げ予定の月面ローバー「ハクト」の最終デザイン (© HAKUTO/KDDI)

グーグル・ルナーXプライズ (GLXP) は、2017年末までに純民間資金で月面にローバーを打ち上げ、最低で500メートル走行させたうえで地球に高精度の写真・映像を送信できた最初のチームに賞金2000万ドル(約24億円)を授与するという月探査レースです。
日本からはハクトが唯一参加しています。

賞金2000万ドル(24億円)と聞くと大金と思われる方がほとんどだと思いますが、実はこの金額ではロケットの打ち上げ費用さえまかなえません。ロケットの打ち上げ費用はその種類や性能によってさまざまで、店で買える商品のように決まっているわけではありませんが、大体の目安として、例えば日本のH-IIAであれば約90億円、アメリカの宇宙ベンチャー企業スペースXのロケット「ファルコン9」で約50億円とされています。
ご覧のように、賞金だけでは打ち上げ費用でさえ満たすことができません。これにローバーの開発費用などもかさむわけですから、打ち上げるためには、私たちが通勤の車などでよくやるように、別のチーム同士で1つのロケットを分け合う(相乗りする)、あるいは、できる限り打ち上げ費用が安いロケットを選ぶ、といった工夫を行う必要があります。もちろんその両方をやれば打ち上げ費用をぐんと安く押さえられるというわけです。

2015年3月、ハクトはアメリカの宇宙ベンチャー企業で、同じくこのレースにチャレンジするアストロボティック社のローバーとの相乗り打ち上げ計画を発表しました。このときには、競争の期限が2016年末であったことから、打ち上げを2016年末までとし、打ち上げロケットをスペースX社の「ファルコン9」とすることにしていました。
しかし今回、ハクトは打ち上げ計画を変更し、相乗りチームをインドのチーム「チーム・インダス」とし、打ち上げに使用するロケットもインドのロケットPSLVに変更しました。

この変更の理由はいくつか考えられます。まずはファルコン9についての問題です。
ファルコン9は今年9月に爆発事故を起こしてしまいました。スペースX社では事故原因の究明を進めたうえで早期に打ち上げを再開するとし、現在その再開は来年(2017年)1月初めとみられています。しかし、人気のロケットであるファルコン9は打ち上げ待ちの衛星が多数あり、その順番を待っていると2017年末に間に合わない恐れがあります(あるいはそれらに先んじて優先打ち上げを求めると追加費用がかかる恐れがあります)。そのため、ロケットを変更し、インドのPSLVを選択したと考えられます。

また、打ち上げコストの側面も大きいと思われます。ファルコン9は世界のロケットの中では打ち上げ費用が安い方ではありますが、それでも費用は約50億円です。一方、インドのPSLVは打ち上げ費用は約20億円とされており、ぐんと「お買い得」です。相乗りであれば打ち上げ費用はさらに安くなりますから、これは実にお得な選択であったといえるでしょう。

さらに、GLXP側の問題もあります。GLXP主催者は、2016年末までに打ち上げロケットを決定しているチームにのみ、賞金授与の権利を与えるとしています。つまり、何がなんでも今年中にはハクトとしても打ち上げロケットを決定しなければならなかったわけです。すでに打ち上げ決定でGLXPの承認を取り付けているチーム・インダスに相乗りすることで、ハクトもGXLP主催者からの承認を得ることができ、これを持って賞金授与のチャンスも引き続き残ることになったわけです。

チーム・インダスは、インドから唯一GLXPに参戦しているチームです。インド宇宙機関(ISRO)の本拠地もあるインドの科学年、バンガロールを拠点に活動しています。その技術力は高く評価されており、今年にはハクトと共に、打ち上げに向けた開発能力が十分にあると主催者からみなされたチームに送られる賞「マイルストーン賞」を送られています。

チーム・インダスの月着陸船の想像図

チーム・インダスの月着陸船の想像図 (© TeamIndus, Source: http://www.teamindus.in/touchdown/)

今回の打ち上げ計画変更に伴い、打ち上げ予定は次のようになりました。

  • 打ち上げ日 2017年12月28日 ※おそらくはインド現地時間
  • 打ち上げロケット PSLV
  • 打ち上げ場所 ISRO サティシュ・ダワン宇宙センター(インド・スリハリコタ州)
  • 着陸予定地 雨の海(月面表側) 雨の海
    北緯35度25分、西経29度23分

このリリースをみて気になるのは打ち上げ日です。打ち上げ日が12月28日と、期限である「2017年末」からたった3日間しかありません。まずこの日に確実に打ち上がる保証がるのか、ということです。機体トラブルなどで少しでも打ち上げが遅れたら賞金をもらえるチャンスを逃すことになります。また、他のチームが先行して打ち上げることも考えられます。そのチームがうまくいってしまえば、これもまたハクトとチーム・インダスは共に賞金を逃すことになります。
その意味では、打ち上げの前倒しオプションなども検討する必要があるでしょう。

今回の新しい打ち上げ計画の決定について、ハクトの袴田武史代表は、ハクトは常に月へ行くための「最適な選択」(「」は編集長)をおこなっており、「月面探査をはじめとした宇宙産業が今後さらに加速・拡大していることにワクワクしています。」と述べ、先週発表された月資源利用についてのJAXAとの共同研究を含めた「その先のビジョン」へと目を移していっているようです。

いずれにしてもあと1年。GXLP主催者は「再度の延長はない」と明言しています。レースが大詰めを迎える中、果たして最初に月面一番乗り(そしてミッション達成一番乗り)を行うチームはどこなのか。2017年は月探査、そしてGXLPから目が離せない年になりそうです。