残念ながら、期限がやってきてしまいました。
月探査レース「グーグル・ルナーXプライズ」(GLXP)に挑戦していた日本のチーム「ハクト」は、31日に声明を発表し、本日が期限となっているレースを達成できなかったことを正式に宣言しました。
なお、残り4チームも本日中に月へ探査機を打ち上げることはないとみられ、GLXPは「優勝者なし」という残念な形で終了することがほぼ確定しました。

ローバー「ソラト」

ハクトが設計・制作したローバー「ソラト」 (© HAKUTO)

ハクトは2010年9月という比較的早い時期からGLXPに参戦し、準備を進めてきました。この間、2016年には技術力が高いチームに設定された「中間賞」を受賞するなど、一貫して高い技術力を武器に開発を続けてきました。

しかし、肝心のロケット打ち上げに際して、相乗りを行う予定であったインドのチーム「チーム・インダス」が打ち上げ費用を調達できなかったため、そのいわば「とばっちり」を受けて打ち上げができなくなりました。
ハクトとしてはその後も独自の打ち上げを模索していたようですが、残念ながらレースの期限内にロケット調達はできなかったということになります。

本日発表されたプレスリリースの中で、ハクトが開発した様々な技術は、グループの母体となっている株式会社アイスペース(ispace)に引き継いでいくことが発表されました。
ハクトを支えてきたファンクラブであるサポーターズクラブについても、今後はアイスペースのファンクラブという形で存続することになります。

アイスペースはすでに昨年12月、日本ではじめてとなる民間企業による独自の月ミッションを発表しています。それによれば、2019年には周回機を、2020年には着陸機とローバーを月面に到達させ、これらによる月の資源(水)探査を目指すとのことです。また、着陸機とローバーに搭載する科学機器などの募集も検討するとのことです。
ハクトで培った技術やノウハウは、これからのアイスペースの探査に存分に使われることでしょう。

ハクトがミッションを達成できなかったことが「無駄な挑戦だった」といういい方をする人もいるかも知れません。しかし編集長(寺薗)はそのような見方には反対です。
ハクトの挑戦は、上記のように様々な技術を残し、将来の民間月面探査を日本で実施するために十分な蓄積を生み出しました。そもそもGLXPの目的は、レースそのものではなく、レースを通して産業を振興させることにあります。ですから、ハクトの(あるいは他のチームの)挑戦がその後の民間月面探査の隆盛につながるのであれば、GLXPは大きな意味があったことになります。

また、ハクトは日本に宇宙ベンチャー企業が根付くことが可能であることも実証しました。
これまで日本の宇宙開発は、JAXAを中心とした(というよりはほとんどJAXAですが)官需と、それを受ける大企業とで占められていました。日本の民間宇宙開発の規模が小さいこともあり、またベンチャーへの投資が行われにくい日本の土壌もあって、日本でアメリカのような宇宙ベンチャー企業が発展することは難しいとされてきました。
しかし、ハクトはベンチャー企業として月探査を実施することを目標とし、いろいろな企業から資金調達を行うことに成功しました。上記の、2019年と2020年のミッションに向けても、いろいろな企業から総計で100億円もの資金調達を行っています。
このような仕組みはこれまでの日本の宇宙開発にはなかったことです。
そして、日本にもアイスペースをはじめ、ロケット打ち上げのインターステラーテクノロジズや人工流れ星のエールなど、いろいろな宇宙ベンチャー企業が育ちつつあります。政府も宇宙ベンチャー企業育成のための資金投入を検討するなど、日本の宇宙開発の構図が大きく変わろうとしています。ハクトはその先鞭をつけた形になったといっていいでしょう。

しかし、何といってもいちばん重要なことは、「夢、そして目標に向かって挑戦する」ことの素晴らしさを、身を持って教えてくれたことではないでしょうか。
確かに打ち上げには成功しませんでしたが、それは結果論であって、このような挑戦をリスクを取って果敢に行うということが、産業全体に閉塞感が漂う今の日本にとって重要なことではないかと、私としては思っています。

GLXPへの挑戦から、新たな産業創出へ。その道は平坦ではありませんが、ハクトのこれまでの技術の蓄積があれば、その道は必ず開かれると私は信じております。
引き続き、私もハクト…アイスペースの活動を支援していきたいと思います。