なぜ「2036」というやや中途半端な数字が出てきているのか、という点については、記事の中で解説しますが、このほど中国の英字紙「チャイナ・デイリー」は、4月29日付の記事で、このように中国が2036年までに有人月探査を実施する可能性が高いという記事を報じました。
その記事の元になっているのは、中国中央軍事委員会装備開発部の副部長でもあり、中国の有人宇宙開発計画副長官、そして陸軍少将でもある張育林氏です。
氏が語ったところによると、中国の有人宇宙開発計画において、これまでの探査計画での実績をもとにして、有人での月探査が行える技術を開発するためにはあと15〜20年はかかるということです。
今年は2016年。単純にかつ余裕を持って、20年を追加すれば2036年。そう、2036年という数字はここから出てきているのです。
なお、この発言は、以前のブログでもお伝えした中国の「宇宙の日」に合わせた会議で発言したものです。重要なのは、中国の有人開発計画のトップがこのような発言を行ったということで、中国が国として有人月探査に乗り出す可能性を示したものといえるでしょう。
ただ、この会議が中国「宇宙の日」に合わせて行われたものであること、そしてその「宇宙の日」が宇宙開発を通した国威発揚を狙って制定されているものであることを考えると、その数値を含め、もう少し割り引いて考えていくことが必要かも知れません。
一方、中国の人工衛星開発を担う中国空間科学技術院(CAST)の研究者、Pan Zhihao氏は、有人月探査を実施するためには、中国は超大型のロケットの開発、月面を自由に(人を乗せて)動き回れるローバー、そしてゲツメンデノミッションのための宇宙服の開発など、いろいろなものを開発しなければならないと述べています。
「アメリカは強力なサターンV型ロケットによって有人月探査を実施した。一方ロシアは有人月探査のために開発したN1ロケットの失敗によってその目標を果たせなかった。中国人の宇宙飛行士を月に送るためには、少なくとも地球低軌道(地上から高度数百キロくらいの軌道。国際宇宙ステーションなどがある高度)に100トンの物資を送り込めるだけの能力を持つロケットの開発が必要となる。これが、我々が長征9号ロケットの開発を開始した理由である。」
なお、現在中国は新型ロケットとして長征5号の開発を進めています。長征5号はロケットの種類や補助ロケット(ブースター)の組み合わせによっていろいろなバリエーションがありますが、中間的な組み合わせの長征5号Cの場合には、地球低軌道への物資輸送力は25トンとされています。
現在、長征シリーズについては5号に加え、7号、及び固体燃料ロケットによる小型の11号の開発が確認されており、9号は5号、7号の次にくる「超」大型ロケットになると推測されます。
また、Zhihao氏は、現在の中国の有人宇宙技術では有人月面探査は極めて難しいとも述べています。月の軌道内でのドッキング(月着陸船と周回する宇宙船)や分離、軟着陸、月面からの上昇など、まだまだ開発すべき課題は多いということです。
さらに、宇宙服については現状よりも軽く、宇宙飛行士への負担が少ない服を開発する必要があるとも述べています。
一見すると大変なことが多そうにみえますが、逆にいえばここまで技術的な課題は洗い出されているということがあり、一旦上層部からGOがかかればいつでも実現に向けて動き出せる、ともいえます。その意味でこれらの動きは、単なる今までの来条件等は異なり、ある程度「機が熟した」ことを示すサインとも受け取れます。
Zhihao氏はまた、2017年に打ち上げが予定されている嫦娥5号は、このような将来の有人月面探査技術を開発する上でも重要なミッションとなると述べています。
同じく中国空間科学技術院のチーフデザイナーであるZhang(張) Bonan氏は、中国は経済的にも技術的にも有人月探査のための宇宙船を開発するための素地が整っていると述べており、その「GO」が国家上層部からかかってから技術開発までにはそれほど時間がかからないだろう、とコメントしています。
ただ、彼はまた「中国の技術者は困難さを過小評価することをしてはならない」とも釘を挿しています。
中国としては、ロケットの性能を高め、一方ではこれまでの神舟や天宮などで培われた有人宇宙開発技術を持ってすれば、2030年代なかばに中国人を月へ送り込むということは可能だという認識に至ったようです。ただ、繰り返しになりますが、国威発揚の席での発言であることを考えると、この目標をストレートに受け取るのも危険でしょう。
以前から、中国の有人月探査は早ければ2020年代に実施ともいわれていました。今回の「2030年代なかば」はそこからかなり後退していますし、現時点では技術的に必要となる内容やその開発にかかるスケジュールの洗い出しなどを実施していると思われます。今後より現実に則した形での目標が出てくると思われますが、そうなれば、中国がアメリカに次いで、世界で2番めに人類を月に送り込むことになる可能性は一気に高まります。
- チャイナ・デイリーの記事