インド(インド宇宙機関: ISRO)が打ち上げを計画している月探査機「チャンドラヤーン2」について、インドの日刊紙「アジアン・エイジ」(The Asian Age)は、打ち上げが4月にも行われる見通しだと報じました。

チャンドラヤーン2は、インドが打ち上げる2機めの月探査機です。1機めとなる「チャンドラヤーン1」は2009年10月に打ち上げられましたが、当初予定の2年間のミッション期間を達成することなく、9ヶ月目で通信途絶となり、ミッションを終了することになりました。しかし、その9ヶ月の間に得られたデータから、月に水(ヒドロキシ基…科学記号でいうとOH基)が広汎かつ大量に存在することが明らかになりました
なお、この「チャンドラヤーン」という言葉ですが、これはサンスクリット語から来ています。サンスクリット語で、「チャンドラ」とは月を、「ヤーン」とは乗り物を指し、これを合わせることで、「月の(月に行く)乗り物」という意味になります。

ISROによると、チャンドラヤーン2は今年上半期に打ち上げられることになっており、6輪のローバーを搭載、周回機・着陸機・ローバーからなる構成のようです。重さは打ち上げ時約3.3トンと、チャンドラヤーン1の2倍半もの重さがあります。
インドとしては、天体へ着陸するはじめてのミッションとなります。
また、着陸地点として、月の南極付近の裏側を選び、史上初の「月の裏側への着陸」を試みようとしているという情報もあります。もしこれが実現すれば、同じく月の裏側への着陸を狙っている中国の月探査機「嫦娥4号」に先んじて、史上初の月の裏側への着陸という「栄誉」をインドが得ることになります。このあたり、中国とインドの間の宇宙開発競争が垣間見える感じがします。アジアン・エイジ紙によると、この計画の総費用は80億ルピー(日本円で約130億円。ちなみに、インドでは1000万を1つの単位(火ロール)として扱うことが多く、原文では800カロール)とのことです。

今回の発表は、ISROの宇宙開発担当(編集長注: 原文ではin-charge of the department of space. チャンドラヤーン2計画の担当?)であるジテンドラ・シン氏が2月17日に述べたものです。
同氏によると、打ち上げは4月に行われ、「本計画はチャンドラヤーン1計画の延長線上にあり、人間を月に送り込むほどの技術を要する」とのことです。有人探査と無人探査を直接比較はできないと思うのですが、開発する側からすると、「史上初の月の裏側への着陸」、そして「国家史上初の軟着陸ミッション」というのは、それほどの重みを持つということなのかも知れません。

シン氏はまた、打ち上げ可能期間(ウィンドウ)は4月から11月まであるとし、「打ち上げ目標は4月だが、もしそれがうまくいかなかった場合には11月の打ち上げを行う」とのことです。

月の南極という場所を着陸地点に選んだことについて、シン氏は「非常に難しい(原文は”tricky”)場所」であると述べ、「数百万年前に形成された非常に古い岩があり、宇宙の起源を解き明かすためにも重要な場所である。」と述べています。ちょっとこの表現は大げさな感じがしますが、月の南極は巨大衝突盆地である「南極-エイトケン盆地」の端にあたる場所でもあり、科学的に興味深い場所であることも確かです。
また、同氏はさらに付け加え、「(月の南極は)これまで探査されていない場所である。過去の月ミッションはほとんどが月の赤道周辺に限られてきた。」とも述べています。確かにこれまでの着陸探査は、安全性や通信の便利さから、ほとんどが表側の「海」と呼ばれる場所となっています。

月の南極は、現在世界的な月探査の流れの中で注目される場所となっています。
月の南極にあるクレーター内には、永遠に日が当たらない場所(永久影=えいきゅうかげ)と呼ばれる場所があり、そこには水(氷)が存在している可能性があるとされています。また、クレーターの縁の部分には逆に、日が当たり続ける場所があるとされています。
このクレーターの縁の部分に太陽光発電装置を設置し、永久影の水を利用すれば、人間が生活することができるかも知れません。このため、月の南極は、各国が月面基地の候補地点として注目しており、今後探査が本格化するとみられています。
シン氏がこの点について触れなかったのは不思議ではありますが、インドとして、当然上記のような流れは見据えていると考えられます。

さて、シン氏の言葉が正しければ、打ち上げは4月に実施され、もしそれがうまくいかなければ11月まで一気に飛ぶことになります。その間に中国は月の裏側への着陸を狙うことはまず確実とみられます。「どちらが先に行くか」という競争にも目がいきますが、世界的な月探査の流れの中で、この「チャンドラヤーン2」の実施がどのようなインパクトを世界の月探査の流れに与えるのかをしっかりとみていきましょう。