NASAは10月16日、木星のトロヤ群小惑星を探査する探査機「ルーシー」を打ち上げました。打ち上げは成功し、ルーシーはこれから12年にわたる長旅に出発しました。

ルーシー打ち上げの航跡

木星のトロヤ群小惑星を探査する探査機「ルーシー」の打ち上げ。ロケット打ち上げから2分30秒にわたって露出を行って撮影され、ロケットの航跡がきれいにみえている。打ち上げはアトラスVロケットが使用され、成功した。
Photo: NASA/Bill Ingalls

ルーシーの打ち上げは現地時間(アメリカ東部夏時間)2021年10月16日午前5時34分(日本時間では同日午後6時34分)、アメリカ・フロリダ州のケープカナベラレル打ち上げ基地から、アトラスV 401ロケットで行われました。打ち上げ後約58分でロケットから探査機が分離され、打ち上げは成功しました。
その後、太陽電池パネルの展開にも成功し、ルーシーは自分自身が発電する電力で探査機として動作し、まさに「独り立ち」したというわけです。
午前6時40分(アメリカ東部夏時間。日本時間では午後7時40分)にはルーシーからの最初の信号が送信されました。

現在ルーシーは太陽を回る軌道にいます(人工惑星となっています)。
このあと、2022年には一度地球に戻り、地球の引力で探査機自身を加速される「地球スイングバイ」を行います。そこで速度をましていよいよトロヤ群小惑星へと向かいます。
その途上、2025年ころには、火星と木星の間にある小惑星帯を飛行、その途中で、この探査機が「ルーシー」と名付けられた理由を作った科学者の名前にちなんで名付けられた小惑星「ドナルドヨハンソン」をフライバイ探査します。

目的地となる木星のトロヤ群小惑星に到達するのは2027年。トロヤ群小惑星は2つのグループに分かれますが、そのうち1つ目のグループ「L4」にある5つの小惑星に連続してフライバイ探査を実施します。
このあと一旦地球公転軌道付近まで戻って2031年にもう一度地球スイングバイを実施、さらにもう1つのトロヤ群小惑星のグループ「L5」に向かい、ここにある2つの小惑星を同じくフライバイ探査します。木星のトロヤ群小惑星を7つ、小惑星帯の小惑星を1つ、合計で8つの小惑星を1つのミッションで探査するという意欲的な計画です。

全ての探査が終了するのは2033年とされています。これから12年間をかけて、ルーシーは太陽系を「股にかける」壮大な旅へと向かいます。

ルーシーが探査するのは、木星のトロヤ群小惑星です。

トロヤ群小惑星は、惑星の公転軌道の上に位置している小惑星です。惑星の前方60度及び後方60度に位置しています。
この惑星の前方及び後方60度は、太陽と惑星との引力が釣り合い、天体が安定して存在できる場所です。このように重力が釣り合って安定している点を「ラグランジュ点」といいますが、トロヤ群小惑星はそのうち「L4」(前方60度)と「L5」(後方60度)という2つのポイントに存在します。
なお、一般的にただ「トロヤ群小惑星」という場合には、数が最も多くかつ最初に発見された、木星のトロヤ群小惑星を差します。しかし、トロヤ群小惑星自体は木星だけではなく、天王星や海王星、さらには地球にすら存在します。

なお、この「トロヤ群小惑星」という名前ですが、これは1906年にはじめて発見された木星のトロヤ群小惑星の名前が、トロヤ戦争の勇者にちなんだ「アキレス」と命名されたことから来ています。

木星のトロヤ群小惑星はトロヤ群小惑星の中でも群を抜いて数が多く、L4とL5で合計1万個を超えます。L4がそのうち3分の2近くを占めています。

木星のトロヤ群小惑星

木星のトロヤ群小惑星の状況を示したアニメーション。右上は日付。もっとも外側の円は木星の公転軌道。その上にあるオレンジ色の点が木星、その60度前方と60度後方に密集している緑色の点がトロヤ群小惑星。
出典: https://www.nasa.gov/mission_pages/lucy/overview/index、Photo: Astronomical Institute of CAS/Petr Scheirich (used with permission)

木星のトロヤ群小惑星は重力的に安定していることから、小惑星がそこから逃れることなく、太陽系形成期からそのまま存在していると考えられています。すなわち、木星のトロヤ群小惑星は「太陽系の化石」ともいえる存在なのです。太陽系ができた頃の物質がまさにそのまま「閉じ込められている」といってもよいでしょう。

今回この探査機の名前となった「ルーシー」は、1974年に発見された、300万年以上前のものとされる猿人の骨です。全身のかなりの部分の骨格が見つかったこの人骨は、人類の大きな特徴である直立二足歩行を行っていることが確認され、まさに人類の祖先、最初の人類の骨ともいえる存在でした。
今回のミッションは、太陽系の「祖先」、太陽系ができた頃の物質を探しに行くということで、まさにこの「ルーシー」の名前がふさわしいものとなっています。

なお、この人骨を発見したチームの一員であったのが、当時ケースウェスタンリザーブ大学准教授であった人類学者、ドナルド・ヨハンソン氏でした。

ドナルド・ヨハンソン氏はこの「ルーシー」の打ち上げにも招かれていました。

ルーシー打ち上げについて、NASAのビル・ネルソン長官は「ルーシーは、科学と探査のために宇宙へと向かい、宇宙と私たちの地球の理解を深めるという、NASAのあくなき探求を具現化したものといえます。このミッションによってどのような謎が解き明かされるのか、待ち切れません。」と述べ、この大胆で冒険的なミッションへの期待を述べています。

NASAの副長官であり、科学ミッション部門長であるトーマス・ザブーチェン氏は、「このミッションは、私がNASAの仕事に就いてからわずか数カ月後の2017年に、私自身としてはじめて承認したミッションです。ですから今回の打ち上げは、またそのときに戻ってきたような瞬間といえたでしょう。ルーシーはまさに発見のミッションであり、謎に包まれた木星のトロヤ群小惑星の理解を進め、太陽系の初期の進化や形成についての謎を明らかにしてくれるでしょう。」と述べています。ザブーチェンさんはNASAの月・惑星探査では必ず出てくる方ですが、その方にとっても印象深いミッションだったのかと思います。

ルーシーのプロジェクトマネージャーであり、NASAゴダード宇宙飛行センターのドニヤ・ダグラス-ブラッドショー氏は、「今日はルーシーにとって信じられないほど素晴らしいマイルストーンだ。ルーシーが行ってくれるであろう大発見で、謎が解明されることを楽しみにしている。」と述べています。

テキサス州サンアントニオに本拠を置き、月・惑星探査にも積極的に関与しているサウスウェスト研究所(SwRI)に所属するルーシーの主任科学者、ハル・レビソン氏は、「私たちがルーシーの概念検討を開始したのは2014年の早期だったので、ここまで来るのには長い道のりでした。この先、最初の木星のトロヤ群小惑星に到達するにはまだ数年かかりますが、その計り知れない科学的な価値を考えれば、それだけ待つ価値はあろうかというものです。木星のトロヤ群小惑星は、まさに空に浮かぶダイヤモンドのようなものです。」と述べています。宝石ではないにしても、それは科学者にとって、宝石以上の価値を持つものなのでしょう。

この先、ルーシーの旅は長く続きますが、これまで人類が到達したことがない天体へ向かうという旅にはワクワクさせられます。
ルーシーがどのような発見を成し遂げ、それが私たちの太陽系の理解、さらには生命の誕生などの理解に貢献するのか、楽しみにしたいと思います。
まさに「冒険は始まったばかり」といえるでしょう。