2018年6月21日、JAXA宇宙科学研究所「はやぶさ2」プロジェクトチームは、小惑星リュウグウからおよそ100キロメートルから撮影した画像を公開しました。

これまで「丸っこい」と考えられていた小惑星の形は、サイエンスチームの予想を超えてそろばんの珠(たま)やコマのような、中心部(赤道付近)が膨らんだ形をしています。これまで観測された他の小惑星と比較検討すると、小惑星リュウグウは現在の7.6時間よりももっと速く自転していた可能性があり、もしかすると過去に持っていた衛星を失ったのかもしれません。

約100キロの距離から撮影されたリュウグウ

ONC-Tによって撮影されたリュウグウ。2018年6月20日、午後6時50分(日本時間)頃の撮影。小惑星までの距離は約100キロメートル。
ONCチーム:JAXA, 東京大, 高知大, 立教大, 名古屋大, 千葉工大, 明治大, 会津大, 産総研

 

約100キロの距離から撮影されたリュウグウ(画像処理済)

ONC-Tによって撮影されたリュウグウに画像処理を行ったもの。2018年6月20日、午後6時50分(日本時間)頃の撮影。小惑星までの距離は約100キロメートル。
ONCチーム:JAXA, 東京大, 高知大, 立教大, 名古屋大, 千葉工大, 明治大, 会津大, 産総研

写真は、「はやぶさ2」が日本時間6月20日の午後6時50分ごろに撮影した画像です。2番目は画像処理を行って、陰影をはっきりさせたもの。連続して撮影された画像からリュウグウの自転の向きもわかり、自転軸はほぼ垂直(両極に対して10度以内の傾き)であると考えられています。地球とは自転の方向が逆であるため、南極が画像の上側、北極が下側になります。

前回の「はやぶさ2」の近況レポートでは、小惑星リュウグウに衛星は見つからなかったものの、サイエンスチームは「何か変わったことがある小惑星だといいな」と期待しているとお伝えしました。今回、リュウグウの形が以前よりもはっきりしてきたことで、「変わったこと」は小惑星の形にあるかもしれない、との可能性が浮上してきました。

初代「はやぶさ」が探査した小惑星イトカワは、ラッコや落花生に例えられるような、中心部がくびれた細長い形をしていました。小惑星リュウグウは、イトカワと違って探査の前にレーダーで形状を観測することができなかったため詳しい形はわかっていなかったのですが、「サトイモ」といわれるようなころんと丸っこい形ではないかと考えられていました。

リュウグウの模型を持つ吉川真准教授

小惑星リュウグウがもっと丸っこいと考えられていたころの模型を持つ吉川真准教授
(© Ayano Akiyama/The Moon Station)

ところが今回、はやぶさ2が近づいて撮影してみたところ、「コマ型」といわれるような中心部が膨らんだ紡錘形の形をしていることが見えてきました。この「コマ」とは少し注意が必要な言葉です。日本式のおもちゃの独楽(コマ)は三角錐をひっくり返したような形をしていますが、英語で「コマ(spinning top)」というと、中心部が膨らんだ形。絵で見たほうがわかりやすいので、ベーゴマを二つくっつけて再現してみました。この形で馴染み深い道具といえば、そろばんの珠ですね。

そろばんの珠

そろばんの珠
(© Ayano Akiyama/The Moon Station)

偶然にも、「はやぶさ2」のアメリカのライバルでもあり友だちといえるNASAの小惑星探査機「オサイレス・レックス(オシリス・レックス)」が向かっている小惑星ベンヌもよく似たコマ型です。「はやぶさ2」プロジェクトチームのミッションマネージャの吉川真准教授は、「同じ時期によく似た小惑星を探査できることはとても興味深い」とのことです。

小惑星のコマ型の形状は、自転速度と関係があります。リュウグウと形状が似ていて、これまでに詳細な観測をされたいくつかの小惑星は、2~3時間と短い周期で自転していることがわかっています。岩がゆるく集まってでできた小惑星は、高速でぐるぐる周っているうちに表面の岩塊(ボルダー)がだんだんと赤道付近に集まってきて膨らんだ形状になります。そのうちの一部は、遠心力が大きくなると外に飛び出して周囲を周る衛星になることもわかってきています。参考資料に挙げられた他のコマ型小惑星は、7個のうち5個が「バイナリー(二重小惑星)」または「トリプル(三重小惑星)」と呼ばれる衛星を持つものでした。

小惑星1999 KW4のレーダー観測に基づいた形状モデル

「コマ型」小惑星のひとつ、NASAが2006年に発表した小惑星1999 KW4のレーダー観測による形状モデル。「Alpha」が小惑星本体で、「Beta」は本体の周りを回る衛星。
出典:『Radar Imaging of Binary Near-Earth Asteroid (66391) 1999 KW4』https://echo.jpl.nasa.gov/asteroids/1999KW4/1999kw4.html

リュウグウは他のコマ型小惑星の2~3倍程度の長い自転周期であるのに、形状はよく似ています。その形成の歴史が明らかになるのはこれからの「はやぶさ2」の観測次第ですが、考えられる原因として吉川准教授は「かつては(リュウグウの)自転が速かったのかもしれない。また、自転速度に影響を与える“ヨープ効果”が加速ではなく減速に働いた可能性もある」としています。

ヨープ(YORP)効果とは、小惑星の自転速度や自転軸に影響を及ぼす現象のことです。天体の表面に太陽光が当たって表面から赤外線が放たれていくと、これが天然のエンジンとなり、長い間に少しずつ小惑星を動かす力となります。自転と同じ方向に力が加われば自転は速くなりますし、反対に力が加わると減速の原因となるのです。

さて、このように小惑星リュウグウにはサイエンス面で「面白い」ことがいくつもみえてきました。これまで探してもみつからなかったリュウグウの衛星は、かつてあったけれども、長い間に飛んでいって失われてしまったのかもしれません。

さて、これから、6月27日(予定)の到着を待ってリュウグウの詳細な観測と地図づくりが始まります。7~8月はこの作業を行い、国際天文学連合に認められる正式な地名の申請も行われます。そして、リュウグウを特徴づける本命ともいえる、有機物を含んだ「含水鉱物」が多く集まっている場所を判断の上で、3回の着陸とサンプル採取に挑む予定です。

取材・文・写真: 秋山文野