ヨーロッパとロシア共同の火星探査計画「エクソマーズ」の着陸実証機「スキアパレッリ」は、10月19日に火星に着陸するはずでしたが、着陸直前に音信不通となり、その後の他の火星探査機の画像の解析などから、火星表面に激突したことがほぼ確実視されています。
事故はなぜ起きたのか。ヨーロッパ宇宙機関(ESA)が中心となり、このスキアパレッリの事故原因の調査が進められています。11月中にも出されるとされている事故報告ですが、現在の調査状況について、ESAが発表しています。

スキアパレッリの前面ヒートシールド

火星大気に突入する着陸実証機スキアパレッリの想像図。大気との摩擦熱などの効果で、前面ヒートシールドが赤熱している。(© ESA/ATG Medialab)

着陸機は行方不明になり、地表に激突、爆発してしまったと考えられていますが、不幸中の幸いで、降下中のデータは地上やエクソマーズ周回機(TGO)などがほぼ完全な形で取得していました。事故調査は、これらのデータから、スキアパレッリに何が起きたのかを突き止めることに重点が置かれています。

調査の結果、これらのデータから、まず大気圏突入とその後の大気での減速(上記の写真にあるように、パラシュートを開く前、着陸実証機自身が大気との摩擦で減速する過程です)は正常に行われたことが確かめられました。
さらに、パラシュートも予定通り開いていたことがわかりました。パラシュート展開は上空12キロメートル、そのときの降下速度は時速1730キロメートルでした。また、熱シールドも高度7.8キロメートルで切り離されていました。
また、スキアパレッリがパラシュートで降下している際、地表との高度を測るためのレーダードップラー装置は正常に作動し、スキアパレッリに内蔵された姿勢制御装置も、そのデータを受けて正常に働いていました。

ところが、1つおかしな点が浮かび上がってきました。
内蔵された慣性計測装置(IMU)の値が、パラシュート展開直後に最大値まで振り切れていたのです。
IMUは運動している物体の速度などを計測するために一般的に用いられている装置で、特に回転の速度(角速度)や加速度などを測るために使われます。実際、スキアパレッリでも着陸実証機の回転速度を測るために使われていました。
IMUの出力値はそれまでは正常だったのですが、突然跳ね上がって最大値に振り切れ、それが1秒ほど続いたのです。

この値がスキアパレッリの制御装置に伝わった際、制御装置が(当然)誤作動を起こし、着陸実証機が負の高度にいると判断してしまったようです。高度が低いわけですから、制御装置はパラシュートと、それにつながる後方熱シールドを急遽(予定より早く)分離してしまいます。そして直ちに減速スラスターに点火、さらには着陸の体制へと入ってしまったようなのです。
探査機はあたかも、スキアパレッリがすでに着陸してしまっているかのように動作していましたが、まだ探査機は高度3.7キロのところを降下中でした。着陸態勢に入ってしまっては、減速などまったく期待できません。そして、スキアパレッリはそのまま高速で火星の地表へ激突した…
これが、上記のような誤った情報を制御システムのシミュレーターに入力した際に得られた、着陸実証機の挙動です。実際に火星表面でこのようなことが起きたのかどうかを知ることは難しいですが、得られたデータに基づいて最大限の解釈を行うと、このようなシナリオが浮かび上がってきます。

ESAの有人飛行・ロボット探査部門長のデビッド・パーカー氏は、「現時点での結論は技術的な調査の初歩の段階であり、最終的な原因究明の結果は、2017年初頭にも外部の独立調査委員会が発表する報告書に記載される予定である。現在ESA長官の要請に基づいてこの委員会の組織を進めており、本委員会はESAの監察官のもとに機能することになる。」と述べています。
ただ、パーカー氏は、スキアパレッリ(のデータ)から多くのことを学んでいると述べており、このデータが、2020年に予定されているエクソマーズの第2弾ミッション(ローバー探査)に活かされるであろう、とも語っています。

イタリア宇宙機関(ASI)のロベルト・バッティストン長官は、「エクソマーズはヨーロッパの科学と探査において極めて重要なミッションである。我々は共にパートナーとしてこのプログラムを担い、共に第2弾のミッションの成功に向けて力を尽くしていく。ESAとASIとの強力なパートナーシップは、この重要で期待が持てるミッションにとって大変有益である。」と述べています。なお、イタリアはエクソマーズの最大の分担国となっています。

パーカー氏が述べている通り、原因究明についてはもう少し結論を待つ必要がありますが、スキアパレッリの装置自身に何らかの不具合があった可能性が高くなってきました。独立した外部調査委員会が今後、これらのデータの精査を進め、どこまで真相に迫ることができるか、それは2020年のエクソマーズ第2弾ミッションだけでなく、ヨーロッパの月・惑星探査の将来をも決めていく重要なポイントとなってくるでしょう。

  • ESAの記事