ここのところ嫦娥3号の成果が立て続けに公表され、中国ではそれなりの話題になっているようです。その一部が漏れ伝わってきているところですが、このほどまた新たな発見が報じられました。嫦娥3号の観測の結果、月の表面に水が(ほとんど)存在しないことが明らかになったということです。人民網日本語版をはじめ、新華社(英語版)など多くのメディアが報じています。
各記事の内容を総合しますと、今回の測定は、嫦娥3号に搭載された紫外線カメラ(編集長注: あるいはスペクトロメーターの中の紫外線の波長部分かも知れません)のデータを解析した結果判明したもので、少なくとも嫦娥3号の着陸点付近である「雨の海」には、水がほとんど存在しないことが明らかになったとのことです。
なお、最初に伝えたのは、中国中央テレビ(CCTV)のマイクロブログ(微博)のツイートだったようです。
中国科学院のWei Jianyan(ウェイ・ジャンヤン)氏は、「今回嫦娥3号の望遠鏡(編集長注: 上記のようにスペクトロメーターの可能性があります)によって月の表面及びその上の水の量の測定を行ったが、いまのところ最低値しか検出されていない。これは、(編集長注: 月に水、あるいは揮発性物質がもともと少ないという)科学的な議論とも合致するものだ」と述べています。
月の水については、現在でもいろいろな議論があります。2009年に月の水の存在を確かめるために打ち上げられたアメリカの探査機エルクロスは、自ら月に衝突し、その蒸気を上空の探査機によって測定してもらうという大胆な手法で、月の表面に水が存在することを確かめました。
また、インドの月探査機チャンドラヤーン1に搭載されたアメリカの測定機器も、月表面に水分子(もう少し正確にいいますとヒドロキシ基)を発見しています。
一方、日本の月探査機「かぐや」は、月の南極近くにあるクレーター「シャックルトン」を詳細に調べ、アメリカの探査機が提唱しているような水の存在は確認できなかった、という結論を出しています。
このように、月に水があるのかないのか、という議論はまだ結論が出ている話ではなく、今回の嫦娥3号の発見も、この議論にさらなる一石を投じることになるでしょう。
もっとも、嫦娥3号が調べた場所は、月の表側、比較的低緯度地域にある場所であり、アメリカなどが将来の月面基地(水があることが期待されるため)と考えている極地域とは異なります。ただ、中国も嫦娥4号を月の極地域に着陸させる予定であり、同じ手法で観測すると、極地域の水の存在をズバリ測定できることが期待できます。
なお、これらの記事にはその他にも嫦娥3号の成果について触れています。例えば嫦娥3号が搭載する紫外線カメラによって、地球の超高層大気の観測に成功したこと、地球に送信されてきたデータ量がすでに7テラバイトにも及ぶこと、地中レーダーによって地下構造などを明らかにしたこと、などなどです。
嫦娥3号の成果にこれからも期待するとともに、日本もこのような成果を出せるような探査機を定常的に送っていれば、あるいはこれらの発見は最初に日本の探査機が成し遂げていたかも…と思うと、日本の月探査にずっと関わってきた編集長(寺薗)としては若干悔しい思いもあります。
- 人民網日本語版の記事
http://j.people.com.cn/n3/2016/0802/c95952-9094051.html - 中国国際放送 (CRI) の記事
https://moonstation.jp/ja/history/Chang_e/