中国の月探査のうち、サンプルリターンを行う予定ということがわかっていた嫦娥5号については早ければ来年(2017年)にも打ち上げられるということがいわれていました。一方、嫦娥3号と同じ着陸ミッションを担当する予定である嫦娥4号の打ち上げは、嫦娥5号と順番が入れ替わる形で2018年ころといわれていました(但し、号数に変更はありません)。
人民網日本語版はこのほど、嫦娥4号が2018年に打ち上げられ、着陸場所は月の南極になるという記事を掲載しました。

この発表は、中国国家宇宙局の月探査・宇宙プロジェクトセンターの劉トン傑副センター長によるものです。それによると、打ち上げは2018年5月〜6月初めころで、最初にまず、月と地球との重力が均衡するポイントであるラグランジュ点という場所のうち、L2という地点へ向かうようです。
その後、着陸船とそれに搭載されたローバーが、月の南極−エイトケン盆地へ着陸する、というシナリオです。

南極−エイトケン盆地は、月の裏側に存在する巨大な盆地(クレーター)で、直径は2500キロもあります。太陽系の天体の中でも最大規模の盆地(クレーター)です。
46億年前に月が誕生した直後に、巨大な天体が月に衝突してできたと考えられています。日本の月探査機「かぐや」がこの地形は詳細に調べており、最も深いところでは月の平均半径に比べて8キロ以上(8000メートル以上)も深いことがわかっています。まさに巨大で深い盆地(クレーター)といえるでしょう。

今回の報道では、この大きな盆地のどこに着陸するかは報道されていませんが、いずれにしてももし着陸場所がこの盆地のどこかであるとすれば、盆地全体が月の裏側ですから、世界ではじめて、月の裏側に探査機が着陸することになります。

南極−エイトケン盆地は、その存在が発見されて以来、惑星科学者、とりわけ月の地質を研究する科学者の注目の的となってきました。これだけ大きな盆地ができる衝突が発生した場合、月の内部の物質もめくれ上がり、月の表面に月内部の物質が露出します。実際、過去の月探査(クレメンタイン、「かぐや」など)では、それらしい物質も見出されています。このような物質はクレーターの中央部に存在することが常であり、着陸場所としてはそのような場所となる可能性が高いでしょう。ただ、中国の月探査グループとしては、おそらくは安全性なども考慮した上で、過去の周回探査(嫦娥シリーズに限らず)のデータをもとに、慎重に着陸場所を検討しているものとみられます。

南極−エイトケン盆地への着陸というミッションは過去にも提案されたことがありますが、そもそも月の裏側であることや、地形が険しい可能性があることなどからなかなか実現にはこぎつけられませんでした。今回嫦娥4号が着陸に成功し、月の内部を構成すると思われる物質の採取(サンプルリターンは行いませんので、その場分析となるでしょう)に成功すれば、月科学への大きな進展が期待されます。
また、中国当局はかねてから、「嫦娥4号は世界初のミッションに挑む」と公言していましたが、単に月の裏側、というだけではなく、科学的にも重要なポイントに挑むことを示したということは、その「本気度」が並々ならぬものであることを伺わせます。