従来、月の表面に存在する(とされている)水(氷)は、月に衝突した彗星などの天体によりもたらされた…つまり、外部起源であるとされていましたが、これを覆すような説が発表されました。NASAの資金による研究により、月の鉱物内に含まれる水(正確にはヒドロキシ基、古くは水酸基と呼ばれる、固定された水分子の一部)が、実は月の内部深くに起源を持つ可能性があることが明らかになりました。この発見は、8月25日に発行される科学雑誌「ネイチャー・ジオサイエンス」に発表されます。

この発見は、2008年に打ち上げられたインドの月探査機「チャンドラヤーン1」に搭載された科学装置、月面鉱物マッピング装置(M3: Moon Mineralogy Mapper)の成果により判明しました。M3のデータからは、これまでにも月表面の鉱物にヒドロキシ基が存在することを発見していますが、それに続く成果となります。

今回の成果は、月の赤道付近にあるブリアルディス・クレーター付近のデータを解析することで明らかになりました。この領域が科学者にとって興味があったのは、岩石の種類が、内部に水を含む鉱物(含水鉱物)を多く含みそうな種類であることがわかったためです。特にこのクレーターの中央丘は、月の深いところ、おそらくは地殻深部、あるいはマントルから上昇してきた岩ではないかと推定されています(編集長注=おそらくはカンラン岩ではないかと考えられます)。

ジョンズホプキンス大学応用物理学研究所で惑星地質学を専攻するラファエル・クリマ氏は、この中央丘付近の岩石が、ブリアルディス・クレーターを作った衝突によって地下からもたらされたことが推定されるとした上で、「周辺の岩石と比べると、この中央丘付近の岩石は著しく多くのヒドロキシ基を含んでいることが判明した。これは、この岩石の中に含まれている水(ヒドロキシ基)が月の内部からもたらされたという証拠でもある。」と述べています。

2009年にM3が発見したヒドロキシ基を含む鉱物は、月の極地域で見つかりました。このときは、水の起源として、月表面に降り注ぐ太陽風(水素を含んでいるので、鉱物の酸素などと結合してヒドロキシ基を生成制した)と考えられてきました。ブリアルディス・クレーターは、もし太陽風が起源だとすると、それだけ「著しく多量の」ヒドロキシ基を生成するのにはちょっと適さない場所にあります。

NASAエームズ研究センターのピート・ウォーデン部長は、「ルナープロスペクターやエルクロス、それに今回のM3のような探査により、私たちは月表面の水についてこれまでとまったく異なる知識を得ることができた。同様に、間もなく打ち上げられるラディー(LADEE)によっても、月上空についての新しい知識が得られることを期待したい。」と、新しいミッションへの期待を述べています。

今回、月内部からもたらされたと考えられる水が発見されたことにより、科学者たちはより広い範囲で月の岩石に含まれる水について考えることができるようになります。例えば、アポロ計画により地球に持ち帰られた月のサンプルなどについても考え直すきっかけになるかもしれません。長年にわたって科学者は、月のサンプル(石や砂)は水を含んでおらず非常に「ドライ」であると考えてきましたし、水が含まれていたとしても、それは地上(地球)で誤って混入したものだと解釈してきました。
しかし、月の内部からもたらされたと考えられる水が確認されたことで、考え方を変えなければいけないかもしれないと、キルマ氏は述べています。「この水は月の火成活動について知るための材料になる可能性もあり、また内部構造を知る手がかりになるかもしれない。そこから、月の形成、そして進化の過程での冷却といった点について知ることができる可能性もある。」