ヨーロッパ宇宙機関(ESA)が実施する火星探査プログラム「エクソマーズ」について、このほど正式にロシアが加わることになり、合意の調印式が行われました。
3月14日、ESAのジャック・ドルダン長官と、ロシア宇宙機関のウラジミル・ポポフキン長官がパリのESA本部で調印式に参加し、両者の協力について記した合意書に署名しました。

ジャック・ドルダン長官は、「これはエクソマーズ計画にとって重要なできごとであり、今後、ロシアとヨーロッパの科学者、そして開発企業が、一緒になってこの計画の実現に取り組んでいくことになる。本計画は、ヨーロッパ企業が今後の国際的な探査計画に参加するために必要な技術的競争力を得るためにも必要なものであり、科学的な観点では、火星の生命という基本的な疑問への答えを得るためのものである。」と述べています。

一方、ウラジミル・ポポフキン長官は、「ここまでの道のりは長かった。ここまで来るために、両者で膨大な仕事を共同で行なってきた。エクソマーズ計画は、ソユーズロケットのクールー(ESAの打ち上げ基地)からの打ち上げ後、2番めに大きなプロジェクトとなるだろう。今回、このような大きなプロジェクトについては、国際協力で進めていくべきであることを再度確認した。この計画で得られるであろう科学データは、世界の科学コミュニティにとっても重要なものである。」と語っています。

エクソマーズ計画は、ヨーロッパが中心となって進めている火星探査計画で、2016年に微量ガス探査周回機(TGO: Trace Gas Orbiter)と着陸実証モジュール(EDM: Entry, Descent and Landing Demonstrator)を、2018年にローバーを打ち上げる予定となっています。

今回、ロシアが提供するのは、この2018年打ち上げの探査機のうち、降下モジュールと地表でのプラットホーム部分です。さらにロシアは、2回の打ち上げについてロケット(打ち上げ機)も提供します。

エクソマーズは、ヨーロッパとしてはじめて手がける本格的な火星全体の探査計画です。マーズ・エクスプレスの成果を引き継ぎ、周回機、着陸機、ローバーという「3点セット」で、火星の総合理解を深めようという計画です。
特に、着陸機やローバー、さらにはそれらに搭載する掘削装置といった部分は、ヨーロッパが現在研究開発を熱心に行っているコンポーネントであり、これらの実証を行うことも、エクソマーズ計画の重要なポイントとなります。そして、実証された技術は、さらに次のステップである、(おそらくは2020年代の)火星サンプルリターン計画でも使用されることになるでしょう。

TGOは、火星大気中に含まれるメタンなどの微量のガスを探査することが目的です。メタンは生命体から放出されることも多いガスであり、メタンの量を調べることで、現在生命がすでに存在しているのか、あるいは地質学的に何が火星で起きているのかを知ることができるでしょう。
EDMは、2018年の探査に備えての技術実証を行うことを目的とします。TGOも、2018年の探査では中継衛星の役割を果たします。

2018年に着陸するローバーはESAが製作します。火星に生命が存在する(した)かを調べるためのこのローバーは、深さ2メートルまで掘削できるドリルを備え、火星の地下からのサンプルを回収することができる機能を備えることになっています。
火星の地下は、地上に降り注ぐ放射線や、大気中の有害な物質から守られていることから、生命の存在が有望視されている場所であり、これまでのローバーでは達成できていない深い場所からの掘削は、新たな発見(とりわけ生命について)が大いに期待されるところです。
このローバーを火星の地表まで安全に送り届けるのが、ロシアが提供する降下モジュールです。また、地表で展開される地表プラットホームには、火星の地表の状態を観測するいくつかの科学機器が搭載される予定です。

エクソマーズ計画は、当初はヨーロッパとアメリカ(NASA)との共同計画としてスタートしましたが、NASAの予算削減に伴って2011年に NASAが計画から撤退、打ち上げなどについて不透明な状況が続きました。しかし、今回のロシアとの正式なパートナーシップ調印に伴って、2016年及び 2018年の打ち上げに向けて、計画が加速することを期待したいと思います。

なお、NASAもエクソマーズ計画に機器供給は行うことになっており、TGO用のUHF帯の電波パッケージやEDMへの電波リンク技術などの供与が決まっています。

エクソマーズの打ち上げは、2016年の1月に計画されています。