今年11月に打ち上げられる予定の火星探査機、マーズ・サイエンス・ラボラトリー (MSL) の着陸点について、NASAは22日、火星の南半球低緯度地域にある、ゲールクレーターにある山裾にすると決定しました。
このゲールクレーターの大きさは直径が154キロメートル。特徴的なのは、このクレーターの中には、アメリカ・ワシントン州にあるレーニア山よりも高い(クレーターの底から測定して)山があるということです(レーニア山の高さは4392メートル)。
クレータの中には小さな山が積み重なっていることから、何回かの堆積活動があったのではないかと考えられています。また、クレーターの中には扇状地にも思える地形があり、かつて水が流れたのではないかという可能性が考えられます。また、山裾にある地層には、粘土や硫化物があり、水と深く関係していることが想定されます。
なお、「ゲール」の名は、オーストラリア人の天文学者、ウォルター・ゲールにちなむものです。
MSLは、約1火星年(687日)に及ぶ探査において、この地域が微生物などの生命をはぐくむに適した環境であるか、さらにはかつて生命が存在していたかどうか(その痕跡があるかどうか)を調べることになります。
NASA本部の惑星科学部門のジム・グリーン氏は、「この新しいローバー探査において、科学者は野心的な挑戦を行うべく、ゲール・クレーターという場所を選んだ。この場所はおそらくすばらしい眺めになるだろうし、科学的発見についてもおそらくたくさんのことが成し遂げられるのではないかと思っている。」と語っています。
探査地点(着陸地点)については、2006年におよそ30地点が、100人以上の科学者からなる国際的なチームにより選ばれました。その中から、2008年には4つの候補に絞られてきました。
既に火星を周回している探査機から、非常に多くの写真が撮影されてきたことで、着陸の安全性の問題、そして科学的な成果についての評価が行いやすくなりました。最終的にNASAの上級科学者たちのチームが評価を行った上で、全員一致でゲールクレーターを着陸点としてMSLチームへと推薦することになりました。
MSL(愛称「キュリオシティ」)は、これまでのローバーに比べても2倍以上の長さ、5倍の重さを持つ大型のローバーです。科学機器は10個搭載され、そのうち2つは、粉状になっている火星の試料の分析を行います。今回のローバーは、これまでとは異なり、原子力電池を使用した熱・電力の供給を行います。また、これまでのエアバッグを用いた着陸方法とは異なり、「スカイクレーン」と呼ばれる、ロケット逆噴射を利用してローバーを吊るし、減速したあと切り離して着陸させるという手法が採用されています。
このゲールクレーターについて、探査科学者のカリフォルニア工科大学のジョン・グローツィンガー博士は、「ゲールクレーターは、火星の低高度地域にある大きなクレーターという意味で魅力的だ。垂直断面図からみて、ゲールクレーターは、火星の巨大峡谷であるマリネリス渓谷並みに魅力的な場所だといえるだろう。」と述べています。
MSLのローバー「キュリオシティ」は、NASAの「火星の水を追う探査」の最新の探査機となります。生命の痕跡として、炭素化合物などの有機物を探すことも探査目的の1つです。長い時間にわたって有機物が保存されるためには、特別な環境が必要です。上述のような粘土鉱物や硫化物は、こういった有機物を酸化などから保存するための良好な物質でもあります。
NASA本部の火星探査担当の科学者、マイケル・メイヤー氏は、「確かにゲールクレーターには有機物があるかも知れないという楽しみはある。しかしそれはやや賭けの要素もある。本当に肝心なのは、有機物があるかどうかではなく、このクレーターが、過去に変化してきた様々な環境の痕跡を残しているのかどうか、そして、それにより、過去の火星に生命の存在にふさわしい環境があったかどうかを調べることにある。」と語っています。
NASAのチャールズ・ボールデン長官は、この着陸場所の決定に際し、「火星は、確実に私たちの視野に入ってきた。MSL(キュリオシティ)は、単にたくさんの科学データを地球に送信することが役割ではない。将来の有人火星探査計画の先駆者となり、火星の環境を調べることが重要なのだ。」と、将来計画も含めた期待を述べています。
・NASAのプレスリリース (英語)
  http://www.nasa.gov/home/hqnews/2011/jul/HQ_11-243_Mars_Sites.html
・NASA MSLページのリリース (写真が加わっています)
  http://www.nasa.gov/mission_pages/msl/news/msl20110722.html
・JPLのプレスリリース (着陸点領域を含む写真があります)
  http://www.jpl.nasa.gov/news/news.cfm?release=2011-222
・マーズ・サイエンス・ラボラトリー (月探査情報ステーション)
  https://moonstation.jp/ja/mars/exploration/MSL/