NASAの科学者により、火星の水の痕跡が、火星表面にある薄い酸化鉄(平たくいえば「さび」)の下にあり、この状況が地球の砂漠でみられるものとよく似ていることを発見しました。
これまでの探査により、火星表面には、かつて考えられていたよりも多い炭酸塩の堆積地があると推定されています。この炭酸塩は、水と非常に関わりの深い鉱物でもあります。今のところ、実際に発見された堆積地はわずかではありますが、多くの科学者は、火星表面の酸化鉄により、この炭酸塩が覆われているために、発見が難しくなっているのだろうと考えています。
この主張を記した論文は、7月1日付の科学誌「国際宇宙生物学ジャーナル」(International Journal of Astrobiology)のオンライン版に掲載されます。
科学者たちは、実際の火星の環境に近い、地球上の砂漠での野外実験を繰り返してきました。この研究の過程で、アメリカ・カリフォルニア州にあるモハーベ砂漠のリトル・レッド・ヒルと呼ばれる場所で、NASAエームズ研究センターのジャニス・ビショップ博士とクリス・マッケイ両博士が、酸化鉄に覆われた炭酸塩の岩を発見しました。このことが、科学者たちに、酸化鉄の重要性を認識させることになりました。
「研究室でのこの岩を調べたところ、薄い酸化鉄の層が、火星の水の歴史を覆い隠している、ということを確信した。この薄い酸化鉄の層により、上空から観測できるスペクトルが変わってしまっている、あるいはその特徴が覆い隠されてしまっている可能性がある。」(マッケイ博士)
マッケイ博士はまた、水が少ない環境でも生きていくことができる青緑色の藻類をこの酸化鉄の層のすぐ下から発見しています。このことから、科学者チームは、火星に生命がいられた時期を少しではあるにしても延ばすことに役立ったのではないかと考えています。
「モハーベ砂漠にいたこの藻類は、酸化鉄によって、危険な紫外線から守られていた。もし火星に生命が発生したら、同じ仕組みによって守られていたことだろう。」(マッケイ博士)
炭酸塩鉱物は、火星の水の歴史だけではなく、かつての火星に生命が存在したかどうかを知るための重要な痕跡ともなっています。
今回の研究では、マーズ・リコネサンス・オービター(MRO)が火星のニリ谷(Nili Fossae)上空を飛行しているときに取得したスペクトルデータが、この砂漠のデータと似た特徴を持っていることを明らかにしました。MROのデータは、この炭酸塩が大量に存在することを示す特徴を持っているのです。
すでにMROは数十~数百メートル規模の炭酸塩の堆積場所を発見してはいますが、今回のモハーベ砂漠での研究により、より多くの炭酸塩の堆積場所が、実際には酸化鉄で覆われているために発見されていない、という可能性が明らかになってきました。
ビショップ博士は、炭酸塩の堆積地が火星表面にどのくらい存在するかを調べるためには、他の鉱物が混じった状態の炭酸塩のスペクトルを詳しく調べる必要があると述べています。
実際、2004年に火星に到着したマーズ・エクスプロレーション・ローバーでは、探査の際に、表面にある酸化鉄の層を研磨装置で取り除いてから、内部の岩石の様子を観察しています。また、このローバーの1台「スピリット」は、グセフ・クレーター内で、小規模な炭酸塩鉱物の堆積地を発見しています。今後、11月に打ち上げられる予定のマーズ・サイエンス・ラボラトリーにより、こういった火星の水に絡む研究がより進展するかも知れません。
・NASAのプレスリリース (英語)
  http://www.nasa.gov/home/hqnews/2011/jul/HQ_11-214_Mars_Water.html
・マーズ・リコネサンス・オービター (月探査情報ステーション)
  https://moonstation.jp/ja/mars/exploration/MRO/
・マーズ・エクスプロレーション・ローバー
  http://moonstatoin.jp/ja/mars/exploration/MER/
・マーズ・サイエンス・ラボラトリー
  https://moonstation.jp/ja/mars/exploration/MSL/