月面に純民間資金でローバーを送る技術競争「グーグル・ルナーXプライズ」(GLXP)に日本から参加しているチーム「ハクト」が、打ち上げの追加資金調達の一環として行っていたクラウドファンディング(広く一般市民から行う資金調達)の達成に成功しました。

月面ローバー「ハクト」の最終デザイン

2017年打ち上げ予定の月面ローバー「ハクト」の最終デザイン (© HAKUTO/KDDI)

ご存じの方は多いと思いますが、ここで改めてハクトについて簡単に解説していきましょう。
GLXPに日本から唯一参戦しているチームが「ハクト」です。日本の最先端技術を惜しみなく投入した小型ローバー「ソラト」(SORATO。本年2月に命名されました)を月に打ち上げ、GLXPが掲げる達成条件「月面を最低500メートル走行し、月の高精度画像・映像を地球に送信する」というミッションを達成、優勝を狙います。
打ち上げは同じくGLXPに参加するライバルチーム、インドの「チーム・インダス」のロケット(インドのPSLV)に相乗りする形で行われます。

実は、この「相乗り」が今回のクラウドファンディングのきっかけでした。
打ち上げを含めて開発費用をできる限り安く抑えたいハクトにとっては、相乗りという形で打ち上げ費用を削減することは既定路線でした。そのため、当初はアメリカのアストロボティックという会社が結成した参加チームのロケットに相乗りをする計画でした。
ところが、このアストロボティックがGLXPから撤退することになり、ハクトは打ち上げロケットを失う形になります。しかも、2016年中に打ち上げロケットを決めていないチームは2017年末の最終レース期限に向けた最終候補として認めないというGLXPの方針が決まっていました。そのため、ハクトはインドのチームのロケットへの相乗りを決断します。
しかし、この打ち上げロケットの変更に伴って、輸送費や関税など各種費用が膨らみ、新たに1億円という(チームの規模からみれば)巨額の追加費用が発生することになってしまいました。ハクトではその7割を自己調達でまかない、残り3割、すなわち3000万円を、一般の人たちからの寄付・出資によって賄う「クラウドファンディング」により調達することを決定し、朝日新聞(メディアパートナーとして名前を連ねています)が開設するクラウドファンディングサイト「a-port」で調達を開始しました。

期限は5月1日でしたが、結果的に目標額とした3000万円を上回る3372万2109円を集め、クラウドファンディグは成功裏に終了しました。
実のところ、締め切り数日前の段階で達成率が6割程度だったりとかなり編集長もヒヤヒヤしておりましたが、最後に一気に爆発的な応募があったようです。
クラウドファンディングは、目標資金に集まらない場合には「プロジェクト失敗」という形になり、それまで集った資金は資金提供者に戻されてしまいます。今回の目標額の達成は、ハクトの月面着陸に向けての大きな一歩になると同時に、多くの方の支援を得ているという心理的に大きな支えをハクトチームに与えることになるでしょう。その支援はきっと成功へとつながっていくのではないでしょうか。

もちろん、だからといってまだまだ不安要素は尽きません。チーム・インダスとの合同の打ち上げは今年12月28日が予定されていますが、そこまでにローバーが開発できるかどうか、インドへの輸送途中に問題が発生しないか、最終試験で何か不具合が出ることはないか、そして何より月面に到達したあと、ハクトが所定の機能を発揮できるかどうか…。しかし、不安を抱いていても始まりません。今は前進あるのみ。「世界初」「日本発」のハクトの挑戦を、私(編集長)も心から応援したいと思っています。